音源を手渡された時、ボーカルでソングライターの海北大輔は「このアルバムは、流し聴きさせない自信があるよ」と言い切った。なるほど作業する手が止まるほど、聞き入ってしまうアルバムだ。言葉の強さ、メロディーの明解さ、そして全体を通して音楽をしっかりと人に届けるために配慮された多様なアレンジが秀逸である。曲によってはスケール感を、別の曲ではミニマムに歌とメロディーを、時にピアノのきれいな音色やギターの荒々しくひずんだ音を取り入れ、それぞれの曲の個性を最大限に引き出している。計算しつくされた緻密な部分だけでなく、あふれ出る熱、人間味のようなものも同じように収録されているように感じる。
このアルバムで特に感じるのは、すべての曲が良い意味でばらばらであること。それは、本人たちがバンドや作品に対して「こうあるべきだ」というイメージに縛られることなく、人間の持つ喜怒哀楽、気分の浮き沈みなど、人として生きる上で不可避な多面性を、臆せず表現しているところからくるようで、海北本人はアルバムに寄せて「一つ一つの気持ちに素直になった結果です。一曲一曲の思いにこんなに『矛盾』をはらんだアルバムは初めてかもしれません」と語っている。