絆や信頼、音に昇華
そもそもLOST IN TIMEの作品性は時期によってさまざまで、歌を静かに伝えていた時期、ギタリスト脱退をきっかけに5人編成になってパワフルなバンドサウンドと力強いメッセージをボーカルのインパクトを意識しながら歌っていた時期、そして年を重ねたことで見えてきたさまざまな景色を表現した時期とあるが、すべての作品で共通していたのは、時々の違いはあれど、一つの世界観、一つの表現にまとまっていたことだった。今作で見せた素直な矛盾は、それらを一つの作品にまとめ上げるためにメンバーやエンジニアとの絆や信頼関係を音に昇華できたという、バンドの状態の良さを見せつけることにも、結果的に繋がっている。
積み重ねたキャリアと、このメンバーだからこそ到達できた表現は、いろいろな感情が入り乱れる日々を過ごしているのに、それらをさらりと最大公約数的なメッセージに集約してしまうあざとさより、矛盾をはらんだ考え、不安や孤独、現状への嘆き、秘めた恋心、未来への希望まで、ありったけの表現で描ききる方が、リアルに聴く者の感情に訴えかけるのではないか。その日その時の心の扉とリンクする「DOORS」というアルバムに、耳と心を預けてみてほしい。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS)