記憶を「植える」
本作は、婚約者から突然別れを告げられたアラサー女性、妙が主人公。道で大泣きしていたところ、大柄な女性にいきなり声をかけられる。「道端で泣くのはやめなさい。泣くのは結構。大いに結構。だけどこんな雨の日に道端にしゃがんで泣くような、そんな惨めったらしい真似はやめなさい」-。
その女性は、「ビオレタ」という店を営む菫(すみれ)さん。菫さんに拾われた妙は、ビオレタで働くことになる。ビオレタで売られているのは、「棺桶」。万年筆、動かない時計、たばこの吸い殻…。行き場をなくしたものを納める美しい箱だ。さまざまな記憶を抱えた人々が、ビオレタを訪れては、そっと思いを店の庭に埋めていく。
「雑貨屋さんに行くのが好きで、舞台にしたいと思っていました。宝石箱のようなものがいっぱいある空間。一方で、30歳を過ぎてからお葬式が続きまして…。感情や記憶って、どう処理をすればいいか分からないけれど、関わりのない人になら、話せるかもしれない。カウンセリングではないけれど、ふらっと寄れる場所があればいいな、と…。土の中に埋めてなかったことにするのではなく、何かを『植える』、新しいものを始めるというイメージも込めました」