「農民とヘリコプター」(2006年)。3チャンネル・ビデオ、カラー、サウンド、手作りの実寸大ヘリコプター。250×1070×350cm、15分。Collaborating_Artists:Tran_Quoc_Hai,Le_Van_Danh,Phu-Nam_Thuc_Ha,Tuan_Andrew_Nguyen。Commissioned_by_Queensland_Gallery_of_Modern_Art,Australia。展示風景:「ディン・Q・レ展:明日への記憶」森美術館=2015年(永禮賢さん撮影、森美術館提供)【拡大】
米国人たちとの触れ合いが深まるほど、レの中で芽生えてきたのは、「個々のアメリカ人は優しいのに、戦争ではなぜ、ベトナム人を200万人も殺せるのだろう」という疑問だったに違いない。
レが1989年、ベトナム戦争がアメリカ側の視点でしか語られないことを批判して発表した「ベトナム戦争のポスター」では、戦争でたくさん生まれたベトナム人孤児らが登場し、米兵の40倍ものベトナム人が犠牲になった事実が知らされる。
いつも戦争は「全体」で語られ、「個人」は消される。レは、一方的な「正義」の裏に、いかに多くの真実が隠されているかを告発してみせた。
編み込んだ2つの自我
アーティストとしてのレの評価を一躍高めたのが、おばから習ったゴザ作りにヒントを得た「フォト・ウィービング」という手法だった。
ポル・ポト政権の政治弾圧「クメール・ルージュ」で行き場を無くした国民の写真と、カンボジアの歴史と祈りの象徴・アンコールワットの写真を組み合わせて編み込んだ「無題(#5)」。そしてパラマウント映画のロゴ、ハリウッド映画の場面、ベトナムの白黒写真などが混じった「無題(パラマウント)」(2003年)では、レの中にある“2つのアイデンティティー”を編み込んだ。