【本の話をしよう】
純文学からエンターテインメント性の強い作品まで、多彩な挑戦で文壇をリードし続ける作家、辻原登さん(69)の最新作品集『Yの木』。表題作では、創作と死のはざまで煩悶(はんもん)する男の姿に、文学を志しては散っていった者への鎮魂を込めた。他にも、ラグビー場を舞台にしたスリリングな短編など、異なるタッチの3編を収録。デビューから30年を経て、なお旺盛な筆力を感じさせる作品集となった。
時代を作る人々
「戦後文学を志して、退場していった人たちへのレクイエム(鎮魂歌)」。こう語る表題作は、妻を亡くし、愛犬とともに暮らす物書きの男が主人公だ。男は愛犬の散歩中、ふとアルファベットの「Y」を連想させる形をした木を発見する。男はつぶやく。「ちょうどいいかもしれない」-。男が思い出したのは、奇妙な方法で自死した1人の作家だった。