作家として成功することがないまま亡くなった実在の男性は、作品のもう一人の主人公ともいえる。「この世界には、しかばねが累々としているんです。デビューできないまでも、小説を書きたい人はたくさんいますし、デビューしたとしても、才能に見切りをつけてしまう人もいる。ステージから去った人は、よき読者になります。書き手、文学を志す者、そして読み手。文学の世界は、たくさんの存在に支えられて成立しているのだと思います」
主人公の男もまた、純文学作家としては食べていけず、少年少女小説を書きながら、作家としての生命をつないでいく。だが、デビュー前から彼を支え続けた妻の死によって、経済的にも精神的にも追い詰められる。「いわば、文学に入れ込んだ男が、現実に復讐(ふくしゅう)される物語です。彼の姿は、失敗例としてのボクでもあります。幸い自分は書き続けられるラッキーな状況にありますけれど…」
男の人生は、1970年代からの戦後文学とともに語られる。「唐や江戸、終戦直後など、さまざまな時代背景でこれまで作品を書いてきましたが、文学というテーマは大きいですね。神話の時代から存在する文学という世界に、今もなお参入しようとする人がいる。そういった小説や詩を書きたい人たちが時代を作っているのではないかと思います」