【本の話をしよう】
わずか数十行の新聞記事。その裏にある人生について、思いをはせたことはあるだろうか。作家、まさきとしかさん(50)の最新ミステリー『きわこのこと』は、ありふれた5つの三面記事から、それぞれに関わった一人の女の人生をあぶり出す。
「謎」を推進力に
《衝突事故男性の死因「窒息死」と判明》《「超熟女専門」売春クラブ摘発》《他人のベランダで暮らす男逮捕》《パトカー追跡中電柱に衝突 女性重体》《母親に強い恨みか 殺人容疑で長男逮捕》-。目次に並べられるのは、こんな5つの記事の見出し(新聞記事のタイトル)だ。「ほとんど、実在の事件をモチーフにしています。『どうしてこんなことになるのだろう?』と、三面記事の向こうにある人生が気になるんです。ありふれた記事であればあるほど、想像も及ばない人生があるはず。三面記事の向こう側を、自分で書くことでのぞいてみたかった」
謎の女と突然同居を始めることになる身よりのない老人、“女”として勝つことにこだわり売春クラブに身を投じる50過ぎのバツイチ女性、夫の連れ子を虐待する女-。コンプレックスや寂しさを抱えたそれぞれの登場人物が、記事で示された結果に至るまでの過程を描く。