そして、わかったのは、本の根の張り方の多様さだ。選者それぞれが挙げた本自体もじつに興味深いのだが、その一冊一冊が読み手と独自の関係をつくっている事実に感銘を受けた。例えば、武田百合子の『ことばの食卓』は、角野、長尾の両者が偶然選んだ本なのだが、まったく異なる読み方、味わい方があり、そのどちらも素敵だと思えたのだ。
最近はたくさん読む人が読書家といわれるけれど、一冊の本を濃厚に読み重ね、自分の中にしっかりと根付かせる読書というのも必ずある気がした。だから、「飛ぶ教室」ブックガイドに載っている全ての本を網羅してほしいとは思わないけれど、自身にとって掛け替えのない一冊を探すきっかけになればいいなと思っている。(ブックディレクター 幅允孝/SANKEI EXPRESS)
■はば・よしたか BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。表参道に「旅と本と珈琲と」というお店をオープンさせました。