ねじ曲がった鉄骨。はぎ取られた家屋の屋根。押しつぶされた乗用車-。闇の中に閉ざされた水底の光景を、言葉だけで、読者の目の前に示してみせる。「見えないものを見せる。小説の力、言葉の力というものに改めて気付かされました」
自らも両親と兄を亡くした舟作。なぜ彼らが死んで、自分は生きているのか。答えを探るように危険を冒して引き揚げを続ける。ある日、そんな舟作に依頼者グループの一人である美しい女性、眞部透子から、奇妙な願いを託される。「行方不明となった夫の指輪を『探さないで』ほしい」というものだった。舟作は妻子がある身でありながら、彼女にひかれていく-。
「これはまた、大人の愛情の問題でもあります。表層的な波の上を漂うだけでは到達しない。どこまで目の前のパートナーと向き合い、勇気を持って潜っていけるか。そのことで得られる人生の豊かさがある」
「普遍」突き詰め
執筆前、被災地の海に手を合わせた。「海に向かって、書かせていただきます、という約束をしました」。その約束を果たすために心を砕いたのは“普遍”を突き詰めるということ。「小説はある意味では、商品となる媒体です。それでもなお書かせていただくならば、それは本物の希望や明日を生きる支えを表現できるものでなければならない」