こうして波響の傑作中の傑作『夷酋列像』(いしゅうれつぞう)が生まれたのである。ぼくはこれを最初に見たとき、日本にこんな絵師がいたのかと驚き、ここにこそ花鳥風月画や浮世絵や風俗画に匹敵する日本のエキゾチック・リアリズムの牙城が極まったと感銘した。そして、波響とはどんな人物なのだろうかとずっと思っていたのだが、昭和61年「新潮」1月号から中村真一郎の『蠣崎波響の生涯』が連載され、まとめて大冊として刊行されるに及んで一挙にその全貌があきらかになり、またまた大いに瞠目することになった。ロマンチックな王朝的作風をもつ作家でありながら、一方では鋭い時代的批評眼の持ち主であった中村のこの本は、中村の『頼山陽とその時代』『木村蒹葭堂のサロン』とともに、近世の文人の本質と活動を知るための必読書3冊となった。