やがて新聞記者や映画製作にかかわりながら幾つかの作品を発表し、1967年に『百年の孤独』を完成させた。17歳の頃からの構想を18カ月間タイプライターを打ち続けて書き上げたもので、架空のマコンドという村を舞台に7代にわたる物語が入れ替わり立ち代わり、夥(おびただ)しい挿話によって語られるというものだ。そう書くとわかりにくそうだが、読めばあっというまにのめりこんでいく魔術的な魅惑に満ちているので、発表直後から全世界の本格派の小説好きに迎えられ、1982年にはノーベル賞が贈られた。
マルケスが追い求めていたこと、それはどんな出来事にも、どんな国のどんな人生にも、そしてどんな交際にも、どんな欲望にも「別様の可能性」があるということだった。これを認知社会学で「コンティンジェンシー」(contingency)という。ふつう人々はチャンスやオポチュニティの到来にたいてい気が付くのではあるが、そこに思いがけないほどの「別様の物語力」がひそんでいるとは思わない。しかし、どんなことにも別様の可能性としてのコンティンジェンシーはひそんでいる。マルケスはそれを連続的に採出していく魔法があることを発見したのだった。