驚いた。後年、文豪として名を成す2人の青年が同じ借家に。不思議な力が働いたのか。礼をいって亀田橋まで引き返す。当時の建物は取り壊されていた。民家が建つ。内堀の向こう。城側は森。古木が水上に枝を伸ばす。
志賀は都会の暮らし、人と人との交渉に疲れていた。静かな城下町で心身を癒やした。昼は宍道(しんじ)湖や松江郊外にまで足を伸ばした。深夜。一人、創作に打ち込んだようだ。
旅の目的を果たした。気分がせいせいする。さて、昼時。出雲そば処へ。八雲(やくも)庵。のれんをくぐる。立派な店構え。コイが泳ぐ池。武家屋敷跡を改装したという。5段重ねの割子そばを注文する。丸い器。食べ方は独特だ。好みの薬味をのせ、だし汁をかけていただく。しみじみとおいしい。
志賀も出雲そばを食べたのだろうか。文庫本をめくる。そばに関する記述は見当たらない。食事は主にパンと上等なバター、紅茶。客が来ると、金盥(かなだらい)で牛肉のすき焼き-とあった。(塩塚保/SANKEI EXPRESS)
■逍遥 気ままにあちこち歩き回ること。