なぜ父と息子は理解し合えないものだと、石倉は考えるのだろうか。「生前、おふくろは息子かわいさもあってか、あらゆることに関して僕の好きなようにさせてくれました。だから母との関係がギクシャクすることはありませんでした。でもおやじとなると話は違います。例えば、僕に『お前は男だろう? やってみろ』なんて調子で叱りつけるわけですよ。どうしたって僕は『お前がそんな男だから俺はこうなってしまったんだろう』と猛反発をするわけです」。父母で違う息子への関わり方を原因に挙げ、特に石倉家において父親の威厳は相当なものだったと付言した。
石倉の父親の頑固ぶりを伝えるエピソードがある。「おやじは明治生まれの料理人なんですよ。おふくろが言うには、父は店が忙しくて手が回らなくなったときに客が『早く料理を出せ』などと言おうもんなら怒鳴りつけたそうです。特におふくろは苦労したそうですよ」。妻や息子に対してだけ強い態度に出ることができる内弁慶ではなく、他人に対しても同じスタンスを貫いた文字通り頑固一徹の人だったようだ。