バブル後の景気低迷の原因を、民間がゼロ金利でもバランスシートの修復に走り、カネを借りなくなったことに見いだしたクー氏。しかし日本企業のバランスシートは「2005年にはほとんどきれいになっていた」という。ただ、バブル後の過重債務に対するトラウマからか、「世界一きれいな企業のバランスシート」「世界一の低金利」「世界一貸したがっている銀行」の三拍子がそろっても、企業は借り入れに消極的なままだった。
同じ構造改革でも安倍・小泉政権で違いが
その点、アベノミクスは財政政策として「借り手不在」の問題に真正面から切り込んでおり、クー氏は「非常に高く評価したい」と絶賛する。
借り入れ需要がないのは設備投資意欲が低いためでもある。経済が成熟し、人口が減って高齢化が進む日本で、設備投資を増やすにはどうすればよいのか。これに対する回答がアベノミクスの「3本目の矢」に相当する「構造改革」である。構造改革といえば、郵政民営化を実現した小泉純一郎・元首相を思い浮かべる読者は多いだろうが、クー氏は小泉改革に反発した論客としても知られる。
小泉政権が目指したのは郵便貯金の民営化だったが、これは貸し手を増やす政策にほかならない。ところが、「当時も今も、日本には貯金する企業や人はいても、借り手がいない。そんなときに貸し手をいくら増やしても、問題はまったく解決しない」と、小泉改革がデフレ解消に至らなかった理由を説明する。