さらにクー氏が「量的緩和のワナ」と呼ぶ危険な落とし穴もある。民間金融機関が中央銀行に預ける当座預金残高は、法定準備残高に対して米国で20倍、日本で12倍、英国で10倍と、きわめて高い水準にある。お金を借りる人がいないとき、こうした巨額の準備残高は何の役にも立たないが、実害もない。ただ、いざ民間部門がお金を借り始めたら物価を10倍、20倍と急上昇させるリスクを秘めている。
FRBは消費者物価の上昇率目標を2%としていたが、実際には1・1%でテーパリングに着手した。それでも、長期金利が跳ね上がって住宅市場の勢いをそぎ、新興国の経済にも打撃を与えた。
FRBに限らず、「量的緩和に手を出した中央銀行は政策目標通りに景気が持ち直し、民間部門がお金を借り始めると真っ青になる運命にある」と量的金融緩和の最大の弱点を示す。
物価がいったん上がり始めたら、これまで供給してきたお金を早く吸収しないと、猛烈な物価上昇に進展しかねない。ところが資金吸収を急いで、中央銀行が手持ちの国債を大量売却すると長期金利が上昇する。お金を借りたい人が増えてくるタイミングであれば、中央銀行の資金吸収が金利上昇に拍車をかけるのは避けられない。しかも、中央銀行が資金を回収しない限り、物価や金利の上昇圧力はずっと高いままだ。