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【底流】攻める日本の高級車御三家 米国で競争激化、今後の課題は?
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ホンダが北米で5月から発売したアキュラ「MDX」
トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの大手3社が、米国向けの高級車市場で競争を激化させている。世界有数の米国市場で、利益率の高い高級車を軸に利益を稼ぎ、新興国市場での価格競争に備えたい戦略とみられる。
「インセンティブ(販売奨励金)を抑えて販売しているが、計画通りに伸びている」
レクサスインターナショナルのプレジデントを務めるトヨタの伊勢清貴取締役は、米国での販売に自信を示す。
トヨタの高級車ブランド「レクサス」の1~6月(上半期)の販売台数は前年同期比9・5%増の11万8415台。同水準で推移すれば年間の目標販売台数26万台に届かない。
だが、レクサスの中で量販が期待できるスポーツタイプ「IS」の販売が7月から始まったこともあり、さらなる伸びを期待する。
日産は、北米での「インフィニティ」ブランドの浸透が「途上状態」(関係者)にあり、上半期の販売台数は3・9%減の5万2233台と苦戦を強いられている。
日産は8月5日に主力車種のスポーツセダン「Q50」の北米販売に合わせ、栃木工場(栃木県上三川町)での生産を5月から開始。米国で3500台の受注があるなど上積みは確実な情勢で、昨年実績の12万台以上を目指す。
ホンダは、「アキュラ」ブランドのセダン「RLX」の販売を3月に始めた。上半期の販売台数は、5・5%増の7万6981台と伸びた。6月からスポーツ用多目的車(SUV)「MDX」も投入。年内にも、ハイブリッド車(HV)「RLXハイブリッド」の販売を開始するなど新車攻勢をかける予定だ。2013年度の販売台数は前年度比1万台強の17万台超を目指す。
各社が注目するのは、米国高級車市場の伸長だ。上半期の販売台数は9・9%増の85万3146台。「(トヨタ全体で)ディーラー経由の販売が強さをみせている」(トヨタのジム・レンツ専務役員)と手応えをつかんでいる。
トヨタの戦略は、「為替に左右されない生産体制を築く」(伊勢取締役)ことだ。国内の主力工場での生産にこだわってきたレクサスの生産を米国でも行うことを決定。5億ドル(約490億円)かけてケンタッキー工場を拡張し、15年から中型セダン「ES」を年5万台生産する。
日産は、これまでの円高基調で輸出採算が悪化しており、「インフィニティが日産全体の営業利益に占める割合は1%未満」(カルロス・ゴーン社長)の状態だった。このため、米国での生産を検討しており、収益性を高める構えだ。
ホンダは、「HVの展開を増やすことで、ブランド力を上げる」(岩村哲夫副社長)考えだ。
しかし、米国市場に目を向けるのはドイツメーカーも同じだ。冷え込む欧州市場での販売を補完しようと、ダイムラーやBMWが攻勢をかけており、高級車ブランド「メルセデスベンツ」と「BMW」は、着実にシェアを拡大している。
上半期の販売も、メルセデスが14万1969台、BMWが14万431台と1、2位を独占した。
米国の高級車市場をめぐっては、レクサスが圧倒的な品質力を武器に1999年から13年連続でトップシェアを確立してきた。だが、東日本大震災による供給不足でシェアを落としてから、強いブランド力を背景にドイツの2強が強力なライバルとなっている。さらに、米ゼネラルモーターズ(GM)の「キャデラック」も販売を伸ばすなど競争環境が激しさを増す。
トヨタは、レクサス低迷の要因の一つとして、「納車遅れを待ってでもレクサスが欲しいというまでのブランド力はなかった」(同社幹部)と判断。4月から、豊田章男社長がレクサス事業を直轄している。
日産はインフィニティの販売攻勢の一環として、クーペやセダンなどのモデル名を「Q」、スポーツ用多目的車(SUV)などには「QX」として発売するなど、統一感を持たせることでブランド力を高める。
足元では円高が是正され、日本車ブランドの価格面での魅力が高まるのは事実。円安メリットを生かし、装備品を充実させるなどの戦略が欠かせない。
自動車業界に詳しい証券アナリストは「アキュラとインフィニティは、まだまだ高級車としてのブランド力はない。日産ブランド、ホンダブランドとの明確な差別化が必要」(証券アナリスト)と指摘している。