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苦しむ患者を救う身体再建 「絶対にNOとはいわない」技術に限界なし
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池山メディカルジャパンが製作する体の部位の数々 乳がんの手術で乳房を失った女性を対象に、人工乳房をつくっている池山メディカルジャパン(名古屋市名東区)。最近は指や足、顔の一部も手がけるなど部位を広げてきた。いずれも医療現場からの“SOS”に応えた結果だ。「苦しんでいる人が、普通の生活を送れるようにしたい」という池山紀之社長は「病院の要望には絶対にNOとはいわない」という信念を貫く。
同社が製作する人工乳房はシリコン製。専門技術者によるオーダーメードで、患者には乳房の喪失感を補うカウンセリングまで実施し、細かい配慮と時間を費やす。
製作過程ではまず、残された側の乳房の型をとり、左右対称になるよう製作する。柔らかさや色など細部にいたるまで“ホンモノそっくり”に精巧に仕上げる。
「温泉に入れる。ブラジャーができる…。“普通の生活”を送ってもらえるようにしたいのです」と池山社長。
平成19年に事業を始め、これまでに約3000人の乳房をつくってきた。
同社の技術は医療機関から高い評価を得ており、現在、約600の病院が同社のパンフレットを置いている。製作を依頼する患者の大半は病院の紹介という。
当初、医療機関の乳腺外科に出入りしていたが、事業を始めて1年あまりたったころ、形成外科の医者から声がかかった。病院内で同社の精巧な技術が話題となり、「乳房ができるのなら、身体の他の部位も製作できるのではないか」という相談だった。
具体的には、「漏斗(ろうと)胸」という、胸の中央部分がくぼむ症状の小学生女児についての相談だった。
女児は、胸がへこんでいることがコンプレックスとなり、水着姿になるのを嫌がるようになった。
相談を受けた池山社長は人工乳房の技術を応用し、くぼみが目立たなくなるよう、同年齢の女児と同じぐらいの胸の膨らみを人工的につくった。
さらに、体の成長に合わせて膨らみに注入するゲル状物質の量を増やす工夫も編み出した。
この経験が、人工乳房以外も手がける転機になった。
「世の中には、医療では解決できずに苦しんでいる患者がたくさんいる。その人たちに『普通の生活』を送ってもらえるよう、なんでも引き受けようと思った」。池山社長はこう振り返る。
そして、医療機関を回る営業マンには口を酸っぱくしてこういう。
「医師から相談を受けた場合、難しそうと思っても絶対に『NO』というな。当社の辞書に『不可能』という言葉はなく、工夫すれば必ずできる」
こうして、形成外科との関係が次第に深くなった。
片脚の膝から下をやけどした女性は、何度皮膚の移植手術をしても、すぐにただれた状態に戻ってしまい、スカートをはくことができなくなった。
池山社長は、ストッキングのように履けるシリコン製の皮膚を考案した。
別の女性は25歳のとき、鼻の軟骨が溶ける病気にかかり、鼻を失った。
軟骨の移植手術を何度やっても溶けるので、外科ではまさに「お手上げ」の状態で、外出もままならなくなった。
女性は途方に暮れ、45歳のとき病院で同社を紹介された。そして、本物さながらの「人工鼻」を付けることができた。
「『子供とレストランで食事がしたい』というのが女性の夢でした」と池山社長。鼻が完成した日の夜、女性はさっそく子供を連れて食事に出かけたという。「このときは、私たちもうれしくなって泣きました」
また、ある小学生は先天的に片方の足の指が3本しかなく、友達と一緒にプールで泳ぐことができなかった。
そこで、人工の小指と薬指をつけたタビ状の皮膚を製作し、夢をかなえた。
製作技術者の小澤豊克・企画開発部長は「指1本のために20本を試作しましたが、そうするで私たちの技術はどんどん進歩します。限界はありません」と力を込める。
「自分たちの事業をビジネスではなく、医療と考えています。患者に寄り添う気持ちが基本」と池山社長。
“製品”に患者が満足しなければ、費用はもらわないと決めているが、これまでに不払いのケースはゼロ。徹底した顧客本位のモノづくりの成果だ。
同社によると、人工の乳房や身体各部位の国内市場は5億~6億円とみられ、ほとんどベンチャー企業が手がけている。
現在は保険適用外のため、人工乳房をつくるのに30万~90万円程度かかるが、保険が適用されるなど市場が広がれば、一気に100億円規模の市場に膨らむ可能性がある。(佐久間史信)
本 社=名古屋市名東区高社1-231
設 立=平成15年1月
事業内容=人工乳房などの製作
売上高=2億円(平成25年3月期)
従業員=29人(パート含む、25年7月末現在)