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武田薬品の決断、大胆トップ人事 グローバルの壁、乗り越えられるか
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社長交代の理由について説明する武田薬品工業の長谷川閑史社長㊧と、後任のクリストフ・ウェバー氏(BenedicteMaindiauxbenedicte.提供) 国内最大手の製薬会社、武田薬品工業が次期トップに外国人を据えることを決めた。長谷川閑史社長の後任に迎えるのはライバル企業の英製薬大手、グラクソ・スミスクライン(GSK)のフランス人幹部、クリストフ・ウェバー氏(47)。驚きの声など反響が大きいのは、世界でも特有な日本企業の文化の中で外国人トップが力を発揮できるかという疑問があるからだ。一方で、他に先駆けてグローバル化を進めてきた武田薬品の大胆人事には期待の声も多い。
「非常に驚いた。そういう時代になったのか。マーケットが日本より世界が広くなっている中で、当然のことなのかもしれない」。武田の人事について、大手銀行関係者はこう話す。200年以上の歴史を持つ老舗が大胆な決断をしたことに、経済界では驚きの声が広がった。
「買収した海外企業を統治する力量が問われていたが、われわれに力がなかった」。一部報道で、長谷川社長は大胆な人事の背景をこう説明する。世界での競争に勝つため、ウェバー氏を「最適な人物」として選んだというのだ。
「グローバル経営」を標榜する武田は、他社に先駆けて積極的な海外展開を進めてきた。外国人従業員比率は7割、経営幹部会議のメンバー9人中5人が外国人で、取締役会での議論、文書はすべて英語になっている。
それでも、武田は売上高ベースでは国内最大手だが世界ではトップテンにも入らない。本拠地であり世界でも市場規模2位の日本には、外資の参入が続く。海外での大型M&A(合併・買収)も進めたが、2011年に1兆円超の巨額買収をしたスイスのナイコメッドは欧州・南米を中心に約1万人の社員を抱える巨大組織で、日本人幹部ではうまく動かせなかった。現状では乗り越えがたいグローバル化の波が、決断を促したようだ。
来年6月に社長に就任するウェバー氏は薬学の博士号を持ち、GSKでアジア太平洋の上級副社長を務めた後、ベルギーにあるGSKワクチン社の社長に就任。武田がヘッドハンティングしたのは、攻略を意識する新興国での実務経験が買われたとみられる。
日本企業のトップに外国人が就くこと自体はそう珍しくはない。だが、資本提携先からの招へいや自社の海外法人からの登用が多く、武田のように外国のライバル企業からのヘッドハンティングはまれだ。
1781(天明元)年創業の武田は、平成15年に長谷川社長が就任する前は、創業家の武田国男氏が社長。今回の人事はまさに激変であり、閉鎖的なイメージが強い老舗日本企業の大胆人事には、海外からも注目が集まった。ニューヨーク・タイムズは「長年にわたる人間関係に重点を置く、“島国根性”の企業文化が、会社を変えようとする外国人にとって大きな障害になる」というアナリストの声を掲載。武田の前途に立ちはだかる障壁は、日本の企業文化だと断じた。
ドラスチックな経営体制の見直しに、外国人トップは吉と出るか、凶と出るのか。だが、これまでの日本企業をみれば、必ずしもそうとはいえない。日産自動車のカルロス・ゴーン氏は大規模なリストラで日産を復活させたが、ソニーのハワード・ストリンガー氏はテレビ事業を低迷から引き戻すことができないまま退任した。
あるメーカー首脳も、外国人トップの“リスク”を懸念する。「外国人は働くことへの考え方がわれわれ日本人とは異なる」とし、文化の違いを指摘。世界でも勤勉だといわれる日本人は、会社のため、プライベートの時間まで費やして仕事をする。とくに一流企業の役員ともなれば、その傾向は強い。
だが、外国人とくに欧米人の仕事観は日本とは正反対。仕事とプライベートはしっかり分ける。「トップに据えたとして、あっさり辞めてしまう恐れがある」(前出の首脳)。物事に割り切った考えをもつ欧米人は、『自分の人生は自分のもの』と、経営の道半ばで仕事を辞めてしまう-。そんな懸念もあるようだ。
とはいえ、国内では武田薬品の人事に前向きな印象を持つ人は多い。「即効性あるグローバル化の方法だ」「普通なら反対がでそうだが、思い切った人事で評価できる」。世界市場で戦うためにグローバル化を進める他の日本企業の手本となるか。外国人をトップとする日本企業の成否が、世界から注目されている。(中山玲子)