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“自分撮り”特化カメラの可能性 キヤノン、新たな市場に手応え

ニュースカテゴリ:企業の電機

“自分撮り”特化カメラの可能性 キヤノン、新たな市場に手応え

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iVISminiの開発・販売にあたったメンバー。この写真は同製品で撮影しており、近距離からでも部屋の隅々まで収まる 【ビジネスのつぼ】

 ネットユーザー意識

 楽器演奏やダンス、料理などを行う自分自身を撮影し、動画サイト「ユーチューブ」や「ニコニコ動画」に投稿する動きが若者を中心に広がっている。キヤノンが昨年9月に発売した「iVIS mini」(2万9980円)は、こうした“自分撮り”に特化したデジタルビデオカメラ。ネットユーザーを強く意識した製品であるだけに、動画サイトへの広告配信に注力し、動画コンテストの開催などで耳目を集めている。

 趣味を邪魔しない

 目指したのは、撮影機器に詳しくないエントリー層でも簡単に設置・操作ができて、趣味を邪魔しない撮影機器。開発を担当した森口喜代さん(イメージコミュニケーション事業本部ICP第四開発センター課長代理)は、動画サイトにある自分撮り動画を繰り返し視聴して研究した。

 「設置や操作に手間取り肝心のシーンを撮り逃してしまう」「前にいる人ばかりが大きく写って背景が入りきらない」「録画中に写りを確認しようとすると目線がずれてしまう」…。さまざまな悩みが浮かび上がってきた。

 試行錯誤の結果、iVIS miniは設置が手軽な置き撮り型とした。撮影角度が調整できるスタンドを内蔵し、三脚を用意する手間も省いた。

 超広角レンズを搭載し、動画撮影時の対角画角は最大約160度(静止画撮影は約170度)。スタジオやキッチンなど狭い空間も隅々まで画面に収まる。被写体でもある撮影者が構図を確認できるよう、2軸構造の液晶画面が回転する。この液晶は常にレンズの真上にあるので、確認しながらの撮影でも目線がずれることがない。

 演奏シーンなどの撮影ニーズを踏まえ、より臨場感ある高音質での録音ができるよう、ステレオマイクを採用した。オプション製品の防滴ケースに収めても、音質はほとんど損なわれることはないという。

 ダンスの振り付け練習に便利な左右反転再生、スポーツのフォーム確認に適したスローモーション撮影といった機能もある。Wifiに対応しているため、動画を交流サイト(SNS)にアップしたり、本体をスマートフォン(高機能携帯電話)で遠隔操作するといった使い方も手軽にできる。

 こういった機能を入れ込みながら、本体の重さは約180グラム、厚さ22ミリとポケットにすっぽり収まるサイズ。携帯してさまざまなシーンで活用できる。

 動画コンテストを開催

 エントリー層向けのビデオカメラはスマートフォンなどの携帯端末に押されてか、世界的には市場縮小傾向が見られる。しかし、同社で新製品の市場導入を担当する清水まり子さん(イメージコミュニケーション事業本部第四事業部課長)は「動画を撮りたいという人口は減っていない」と語る。「撮影対象が日常生活やイベントから、趣味など自分の関心事に移っている。撮りたいものに特化した製品にすれば売れる」と考えた。

 さらに、趣味動画の分野では「アクションカメラ」や「ウエアラブル(装着型)カメラ」と呼ばれる製品が話題となっているが、こういった製品は自分の目線の動画を撮る目的が中心。これに対し「自分自身を画面に入れ込んで撮影する需要が増えている」(清水さん)と、新たな市場を作り出せる感触を得たという。

 ターゲットを絞り込むため、顧客の反応を直接獲得できるダイレクト・マーケティングを重視し、販売は同社のオンラインショップに限定。自分撮り動画の分野で著名なブロガーに製品レビューを書いてもらったり、ダンススクールや音楽専門学校などにデモ機を貸し出して使ってもらったりして、認知度を上げていった。昨秋に開催したパフォーマンス動画のコンテスト「KING OF やってみた選手権」も、製品のファンを増やす工夫だ。

 製品の広告動画や選手権の告知は、動画サイトを中心に配信。発売した昨年9月には、ドイツ版ユーチューブで広告動画が1000万回視聴され、広告部門で3位となる快挙も成し遂げた。オックスフォード英語辞典などを出版する英オックスフォード大出版局は2013年を代表する英語の言葉として、自分撮り写真を意味する「セルフィー(SELFIE)」を選出した。自分撮りは世界的に認知されている。

 マーケティングを担当したキヤノンマーケティングジャパン・イメージングシステムカンパニーのチーフ、藤中炎さんは「単独での山登りで風景に自分を入れた写真を撮ったり、結婚式で高砂にカメラを置いて新郎新婦を撮影したりするなど、こちらが想定した以上の使われ方をしている」と胸を張る。「動画の楽しみ方を広げたい」「新市場を作りたい」という開発陣の思いは、ユーザーに確かに届いている。(松田麻希)

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