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「GM」の泥沼リコール問題は、「トヨタ」とは比較にならぬほど悪質

ニュースカテゴリ:企業の自動車

「GM」の泥沼リコール問題は、「トヨタ」とは比較にならぬほど悪質

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 米自動車最大手、ゼネラル・モーターズ(GM)の大規模リコール(無償回収・修理)問題が泥沼の様相を呈してきた。追加リコールが繰り返され、これまでに計650万台(4月1日現在)と急膨張。10人以上の死亡が確認された“死のクルマ”の欠陥が長期間放置される疑惑もあり、米政府が威信をかけて再生させた「自動車王国」が再びがけっぷちに立たされている。

 米公聴会で陳謝する話題の女性CEO

 「(欠陥で)多くの人の命が失われた」

 4月1日、米下院エネルギー商業委員会の公聴会後、GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は記者団に対し、こう述べて改めて謝罪した。

 自動車大手首脳がリコールに絡んで公聴会に臨むのは、2010年2月に「意図しない急加速」問題でのトヨタ自動車の豊田章男社長以来。しかし、GMとトヨタでは悪質度合いが全く違う。

 トヨタの場合、米運輸省などは「エンジンを制御する電子スロットルに原因の可能性がある」と主張したものの、最終的にはトヨタ車に問題がなかったことが判明している。

 これに対し、GMは一部の乗用車が点火スイッチの欠陥で走行中にエンジンが止まったり、衝突時にエアバッグが作動せず、関連事故で12人が死亡。米消費者監視団体の自動車安全センターによると、死者数が約300人に上るとの調査もあり、重大事故につながる欠陥ということが分かっている。

 10年以上も欠陥を放置する「異常」経営

 しかも、GMは事態を01年には把握していたとみられ、10年以上にわたって放置していたことで批判が集中。リコール台数も2月に発覚した当初約160万台としていたが、新たな追加リコールが次々と発表され、延べ約650万台にまで膨らんでいる。

 トヨタもリコール問題が騒がれた09、10年当時公表したリコール台数は約700万台と、今回のGMとほぼ同じ。しかし、日本の自動車関係者は「リコール台数や企業規模、社会への影響などから同じような問題に扱われているが、全く性質は異なる。GMは危険度も高く、何よりも隠蔽(いんぺい)疑惑が間違いなのであれば、その罪はきわめて重い」と厳しく言い放つ。

 バーラ氏は1日の公聴会で、01年に車の欠陥を把握しながら適切な措置を取らなかったことを認めた上で「影響を受けた全ての人に深く謝罪する」と陳謝したが、隠蔽疑惑が出ていることについては「調査中」と明言を避けたという。

 米政府の“七光り”でスピード復活

 自動車産業は年間120兆円以上といわれ、その裾野の広さから米国にとって最重要の産業と位置付けられている。他産業とは異なり、1890年代にヘンリー・フォードがガソリン式自動車を開発以来、米国は自動車産業をリードしてきたという自負もある。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉で米国が自動車関税で日本に譲歩しないのもそのためだ。

 GMは自動車業界の頂点に長きにわたって君臨したものの、09年に「連邦倒産法第11章」の適用を申請。事実上、経営破綻(はたん)して国有化されたが、わずか4年後に米政府は保有していた全GM株を売却し、再生を果たした。

 「米国にとってGMは単なる一企業ではない。国の象徴ともいうべき存在であり、政府の全面支援があったからこそ短期間で再生できた」

 別の関係者はこう解説した上で、「それだけに今回の問題ではトヨタとは異なり、当初は大甘処分も予想された。だが、問題が悪質でリコール台数も膨らんできたこともあり、米政府も徹底的に究明せざる得なくなった」と話す。

 GMブランド失墜。2度目の破綻も!?

 米国企業は、日本のように事故や不祥事で経営トップの進退問題に発展するケースは少ない。現在は組織的な隠蔽の有無が焦点となっているが、「それがバーラCEOら経営陣の責任が問われる方向には行かないのでは…」(国内自動車メーカー関係者)。

 ただ、GMブランドのイメージダウンは相当なもので、特に米国での販売不振につながる恐れは強い。欠陥の長期放置について「必ず突き止める」(バーラCEO)と言明するが、真相究明が長引いたり、リコール台数がさらに積み上がれば、経営状況が一気に悪化する怖れもある。

 衝撃の破たんから奇跡の復活-。GMストーリーの第三章は「悪夢の…」となるかもしれない。

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