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集まるアイデア 「共創」が生み出す影響力とは?
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eYekaクリエイター向けサイト コカコーラが「元気の出る飲み物を30秒の動画で表現してください」と問う。すると3か月以内に2500以上の動画が殺到する。リーボックの「スポーツシューズ、衣料以外でリーボックが女性に提供できるものを考えてください」との呼びかけには2週間で700を超えるコンセプトが集まる。
共創(コ・クリエーション)という言葉がある。誰か突出した才能の人に頼るのではなく、多くの人が知恵を集めて一つのコンセプトやプロジェクトを創りあげていく。集合知の活用である。そのプラットホームの一つにeYeka(アイカ)がある。冒頭は実例だ。
アイカは2006年にスタートしたフランス企業だ。クリエイティブな人たちが繋がるヴァーチャルコミュニティを運営し、コンテスト形式で企業マーケティングにユーザーを巻き込む。優秀なアイデアには賞金が出る。
それだけではない。企業とクリエイターの間に直接のチャネルもできる。顧客にはネスレやサムスンなどの有名どころが名を連ねるが、日本企業のエントリーはまだない。が、5月後半から続々と登場するようだ。
現在、メンバーは154カ国24.5万人。消費者の1%といわれるクリエイティブ・コンシューマー層がコアだ。プロのクリエイターは10%。残りが業界関係者、学生、アマチュアである。これまで約500の案件に7万以上のアイデアが集まってきた。
日本の独占販売権をもつ広告代理店のアサツーディ・ケイの原口政也さんは語る。
「大手企業の事業部担当の役員クラスから直接の問い合わせを多くいただきます。仕掛けた本人が言うのもなんですが、新しいアイデアに対する企業の関心の高さには驚きます」
募集内容は新商品などのアイデアと広告の動画やグラフィックのコンテンツの2種類に分けられ、比率でいうと前者が6割で後者が4割だ。市場としては周縁に位置するセネガルやウズベキスタンなどに住むクリエイターの作品に注目が集まることが珍しくない。大市場をひかえるNYや上海に住んでいることが良いアイデアを生み出す条件にならない。いや、多数と似た環境にいることが逆に不利かもしれない。
「アイカはテーマに感度が高く表現に優れる人が集まる、いわば『道場』なんです。6-7人のコミュ二ティーマネージャーが案内役になってメンバーに投稿を促したり、作品の質のチェックや助言をこまめにします。企業が投げるお題目も、マネージャーが事前にメンバーに打診し、より魅力的な作品が集まるようコミュニティをマネジメントしているのです」と原口さん。
賞金目当てに自動的にアイデアがやってくるのではない。アイカには複数の国で生活や仕事を経験してきた社員が多い。そこで各地域の文化事情に勘がききやすい。その彼らがコミュニティを手塩にかけて育てている。
実は、ぼくがアイカに興味をもったのは、アイデアやコンテンツというアウトプットまでの協業プロセスだけではない。提案からの「逆算」だ。
ここにクリエイターが主役であるもう一つの理由が隠されている。
一般消費者の声を聞いて市場分析するケースは多い。しかしアイカは違う。クリエイターの作品そのものに潜むクリエイター自身の目線を探り当て、一般消費者からは浮き彫りにされにくい本音を見つける。企業もこのサービスに関心が高い。
原口さんは、こう説明する。「あるブランドに世界中からコンテンツを表現してもらいますよね。それらに対して、文化人類学や社会学の専門家が作品の全てに共通する因子やシンボルを見つけ、なぜメンバーはそのような意識を持ったのか?と掘り下げてゆきます。なぜ赤ばかり使われるのか? なぜ力強いイメージが強調されるのか? と」
高い表現力のクリエイター作品だからこそ、実践的且つ深い議論が可能になるわけだ。現代の社会でクリエイターあるいはデザイナーの重要性がいや増しているのは、彼らの感度と可視化能力に大きく拠っている。
ただ、共創のプラットホームが生み出す社会的影響力は普通の人が想像しているよりずっと大きい。この話題は次回に譲ろう。
尚、eYekaのサイトURLは企業向け(http://www.eyeka.net/)とクリエイター向け
(https://en.eyeka.com/)に分かれている。