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大企業が一瞬で市場シェアを失う時代 「柵」を見直すとき

ニュースカテゴリ:暮らしの仕事・キャリア

大企業が一瞬で市場シェアを失う時代 「柵」を見直すとき

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原口政也さん  「毎日、パリやシンガポールなど世界中のパートナーと電話やスカイプで話し合し、プロジェクトの実現に向けて動いていくと、芋づる式のように各分野のポテンシャルあるエキスパートとどんどん繋がっていくんですよ。リンダ・グラットンの『ワーク・シフト』で描かれた近未来の世界そのままです」

 こう語るのは前回の記事で紹介した、クリエイターの集合知を実現するeYeka(アイカ)を日本で独占販売するアサツーディ・ケイの原口政也さんだ。新しい人と知り合うごとに近未来の風景が見えてきてゾクゾクするという。『ワーク・シフト』は2025年の働き方を語った本だが、2013年の原口さんの身に既に変化は起こっている

 「この仕事に関わって以来、私の人生はどんどん変わり、グローバリゼーションの大きなうねりを日々刻々と実感しています」

 例えば、YouTube上で世界規模の動画ファンコミュニティーがある。この中にアイカのメンバーがたくさんいる。人気動画のリンクが拡大していくに伴い、原口さんのネットワークも同時にリアルタイムで広がっていく。

 ソーシャルメディアはポジティブな創造空間である時に大きな力を発揮するが、彼はまさしくその世界に入っている。

 「とっくにそんな世界に生きているよ」と言う人もいるかもしれない。しかし、フリーランスの世界では当たり前のスタイルが大手広告代理店には新鮮である。その背景を原口さんの言葉で探ってみよう。

 自分ですべての戦略を決められる人はツイッターやフェイスブックでまったく縁のなかった人と知り合い、仕事に発展することは珍しくない。一方、公表する内容を自分で決めにくい大企業のビジネスパーソンは料理の写真とか無難な投稿に終始する。

 原口さんのフェイスブックの個人アカウントも食事や趣味の投稿が多い。だいたいアイカをはじめるまでソーシャルメディアに冷淡だった。「ノマドと称する人たちが『世界と繋がる』とか言ってても、ぼくには関係ないね」とも40代後半の彼は思っていた。

 これまで日本の大企業のイノベーションは技術系エンジニアから生まれやすいとみなされてきた。が、文系のイノベーターもグローバルなソーシャルコミュニティから出てくるのでは?との感をアイカに関与して彼は強くもちはじめた。

 「ここでは『多様性』と『周縁性』という二つが理解の鍵になります。多様性は言わずもがなですが、変化は周縁からやってきます。コンテストを主催するアイカにとってメンバーの作品は、いわば周縁になる」

 広告会社は今まで周縁の役割を担っていた。旅人や芸人の話を王様が好んで聞いたように、スポンサーは広告会社に周縁からの予知を求めた。そしてITの時代、スケールを越えたところからの旅人を迎え入れることができるようになった。

 「ウズベキスタンやセネガルから斬新なアイデアが届いたら、それは楽しいに決まってますね。この辺がアイカのビジネスの成功要因なのでは、と思うんです」

 ただもちろん、今日の周縁が明日の周縁とは限らない。だから皆が知らない経験の組み合わせをもっていることが強みになってくる。

 原口さんは、これまでヨーロッパ企業の日本市場でのブランド管理や日本企業のアジア進出のマーケティングに従事してきた。

 「今までの日本の広告代理店って、お互いの関係が確定していて想定外のことが起きにくい柵の中でのビジネスでした。でも今、柵の外に出ているとの実感があるんですね」

 無名の会社が短期間で急伸し、大企業が一瞬にして市場のシェアを失う時代だ。柵そのものの見直しが迫られている。

 物心ついたときからコンピュータに触れてきた層を示すC世代という言葉がある。コンピュータ(Computer)が人の繋がり(Connect)を生み、そのコミュニティ(Community) で何かを創造(Create)することを普通と思う人たちだ。

 このC世代の考え方や感じ方を単なる世代間ギャップと大企業幹部が見下していると足を掬われる。日本の伝統的な企業社会にも影響を与えるビジネス文化の変容が着実に起きていることに目を向けないといけない人たちは多い。 

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