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【書評】『日本人らしさの発見』芳賀綏著

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【書評】『日本人らしさの発見』芳賀綏著

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 広範な学術成果を明快に

 眼(め)からウロコの日本文化論である。従来の日本文化論は、自らの専門分野に偏ったり、他国との比較を欠いたり、西洋との対比でしか論じられなかったりと学問的に疑わしいものが多かった。「日本文化論の時代は終わった」などと指摘されたこともある。

 平易な語り口で読ませる本書は、著者の本拠とする国語学のほか、文化人類学、地理学、考古、歴史、民俗、政治、社会学、動物学などの広範囲におよぶ学術成果を取り入れ、世界の文化を縦横無尽に論じる。映画やDJポリスなどの卑近な例まで織り交ぜながらの緩急自在の筆致は、読者を倦(あ)きさせない。雄大なスケールにして緻密な実証研究を明快な文章で綴(つづ)るという著者の名人芸が大いに発揮されている。まさに「芳賀学」の集大成といえる。

 世界の民族の基本的性格は、人種や生理的DNAではなく、風土とそれに応じた生業の成立・発展によって形成されるとし、凸型文化と凹型文化に分類する。ユーラシア大陸の大半を占める乾燥地帯では、牧畜という生業の伝統により、他者を支配しようとする攻撃性の凸型文化が形成されたのに対して、多雨湿潤の気候で豊饒(ほうじょう)な海に囲まれ、稲作漁撈(ぎょろう)を生業としてきた日本列島には、他者との和合を求める、やわしき心を本領とする凹型文化が受け継がれてきた。

 地球破壊が進み、文明の転換が求められる今こそ、日本人は自らの文化の美風を自覚し、世界に向けて発信しなければならないと説く。「二一世紀は日本の世紀であるべきです」との冒頭文に、バブル崩壊以降自信を喪失してきた多くの日本人、特に若い世代はどれだけ励まされるだろうか。

 また、本書は、計画性・原理原則を欠くという凹型文化の問題点を指摘し、その大規模なモデルケースとして、満洲事変から敗戦に至るまでの過程を取り上げる。上層部が明確な計画を欠いたままズルズルと敗戦まで引きずられていった歴史的事実の指摘は、戦後歴史学で定着した感のある「十五年戦争」「天皇制ファシズム」などの概念に再考を迫るものでもある。(大修館書店・2100円)

 評・松井慎一郎(早稲田大講師)

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