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【書評倶楽部】アルピニスト・野口健

ニュースカテゴリ:暮らしの書評

【書評倶楽部】アルピニスト・野口健

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 □『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』堀江貴文著

 ■努力を重ねてきた男の物語

 登山家という仕事柄、全国の学校や企業などから「挑戦」や「夢の実現」をテーマとした講演会に招かれることが多々ある。講演後には質問や意見をいただくが、近年、特に若者から増えてきた声のひとつに「成功への近道を教えてください」というものがある。「成功への近道」とは要するに「手っ取り早く夢をかなえるノウハウを教えてくれ」ということ。この手の質問がなされると、私は「そんなものはない。あるなら自分が知りたいくらい(笑)」と即座に切り返すことにしているが、それは私自身の経験による実感に基づいている。

 私は登山家としての活動以外にも富士山の清掃活動やヒマラヤ登山の案内役であるシェルパの遺児の教育支援、戦没者の遺骨収集など幅広い活動を行っているが、どの活動にしても思い通りにいったためしなどない。たとえば富士山の清掃活動ひとつとってもそう。はじめはボランティアスタッフを募っても人が集まらず、富士山を取り巻くさまざまな利害関係者に反発もされた。しかし、コツコツと活動を続けるうちに、徐々に国民運動的な広がりを見せ、平成21(2009)年には6800人が参加。ボランティアのごみ拾いにもかかわらず参加人数を規制するほどになった。

 私はこの「コツコツ」、つまり努力こそが、冒頭の質問に対する答えだと信じているが、本書を読んでその意をさらに強くした。言わずと知れた「ホリエモン」こと堀江貴文氏の最新著作。「働くこと」を主軸に氏のこれまで語られてこなかった半生が真摯(しんし)に綴(つづ)られている。一般的なイメージでは「努力」という言葉が最も似合わないように映る方かもしれない。しかし、通読して感じるのは氏ほどの努力家はそうそういない、ということ。本書はひたすらにコツコツと努力を重ねてきたひとりの男の物語であり、人生をよりよく生きたい、成功したい、と願っている人にとってうってつけの一冊になるはずだ。(ダイヤモンド社・1470円)

【プロフィル】野口健

 のぐち・けん 昭和48年、米ボストン生まれ。7大陸最高峰、世界最年少登頂記録を25歳で樹立。著書に『確かに生きる』ほか。

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