一般の人々にとって氏のイメージは、節制された情熱を持ち、そして、まさに迷いのない信念を持ったジャーナリストとしての姿だろう。本書には、そのイメージの後ろにあって、これまでは見られなかった氏のプライバシーとジャーナリストとしての哲学の話が書かれており、非常に面白く、感心しながら読んだ。戦後の日本社会がどういう姿で、その時代を女性たちはどのように生き、その中で、「櫻井よしこ」というジャーナリストがどのように作られたのかがよく分かる。
私のように、日本や日本の現代史に関心を持つ外国人(韓国)の学徒にとってもこのような自伝は貴重だ。その時代の雰囲気や情緒が読める史料でもあるからだ。
氏は子供時代を過ごした大分の中津から長岡(新潟)、ハワイ、東京と舞台を変えながら、熾烈(しれつ)に「現実」を生きた。その中で現在のフリーランスになるまでの決断の瞬間、瞬間を淡々と語っている。
多くの自伝は無意識的にでも真実を隠したり、あるいは美化、誇張する部分が少なからずあるが、氏の自伝は、プライベートでの結婚、離婚や103歳の母親の介護などを含めて自分を非常に「透明」に語っている。特に強く感じたのは家族、特に母親への思い、愛情である。母と娘が支え支えられての「美しい生」はうらやましくさえ思う。
そして、さすがに氏は物書きのプロフェッショナルだ。本書の中では、凡常でない個人事を通じて日本の社会に向けて発信したいことを、ちゃんと語っている。家族の大事さ、伝統や生活の知恵など、である。
もちろん氏の歩みは同時代の日本人、日本の女性の平均的生き方とは、少し違うというべきだ。何よりジャーナリストらしいと思うのは氏が観念的論理でなく「経験と現実」を通じて勉強し、成長していることだ。仮に戦後の昭和と平成時代を熾烈に生きた一人の女性ジャーナリストの一代記を映画にするなら、氏こそモデルになれるであろうし、本書は一代記を作るのに不可欠な資料になるはずだ。(文春新書・840円)
評・洪●(ホンヒョン)(評論家)
●=榮の木が火