■ビッグデータは使い方次第
世の中、ビッグデータばやりである。クレジットカードのデータ、大型店舗の顧客データ、ネットショッピングの売り上げデータ、インターネットの検索データなどなど、過去にはその膨大な量と迷路に入り込んだような複雑さで、存在は分かっているが、どう扱っていいかが分かりにくかったので、あまり顧みられないデータであった。
しかし、いまやそのデータが、未来を予測してくれる宝の山であることが分かり始めて、大モテの貴重なデータへと変わりつつある。
本書はそんなビッグデータを用いて近未来を予測する「予測分析」について書かれたものである。随所にちりばめられた名言、箴言(しんげん)、迷言がまず目をひく。冒頭に出てくる「昨日は歴史、あすは謎、しかし今日という日は贈り物だ。だから現在(プレゼント)と呼ぶ」という言葉が、明日を予測するものが「今」のデータであることを示している。そして「データは新時代の石油である」「これから10年間で最もセクシーな職業は統計学者だ」「取引に関する情報は、いずれある段階で、取引そのものより重要になるだろう」「扱いようがないと思える無形のものも、測定できる」現状を語っている。
本書のもう一つの特徴は豊富なケースの例示である。例えば30万人以上いる従業員の退職可能性(フライト・リスクと呼ぶらしい)を社員データから算出するケースや、買い物データから女性が妊娠しているかどうか(もちろん、妊娠している女性ならではの買い物予測を可能にするため)を予測するケースなど、まるでこの世の中には分からないことなどないと思えるような例が盛りだくさんだ。
しかし、このような予測分析は、一歩誤ると個人のプライバシーの侵害という負の側面をもたらしかねない。それはもちろん、退職や妊娠といった個人にとってプライベートな事情そのものも、ビッグデータの解析から分かってしまうからである。だからこそ「ヤバい」と題されたのかもしれないが、この諸刃(もろは)の剣をどう使うかはまさにこれからの人間の心根一つなのだ。(阪急コミュニケーションズ・2100円)
評・林光(社会評論家)