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父から学んだ愛社精神、自身の会社でも… サイバーエージェント社長・藤田晋さん

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父から学んだ愛社精神、自身の会社でも… サイバーエージェント社長・藤田晋さん

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「最近、父に『晋のような社長の下で働きたかった』と言われたんですよ」と、うれしそうに話す藤田晋さん(野村成次撮影) 【父の教え】サイバーエージェント社長・藤田晋さん

 会員制サイト「Ameba(アメーバ)」の運営などを手掛けるインターネット関連会社「サイバーエージェント」(東京都渋谷区)。社長の藤田晋さん(40)はサラリーマンだった父、隆さん(69)とは違う道を歩みたいと考え、16年前に起業。「21世紀を代表する会社を創る」という大きな目標を掲げ、事業拡大に突き進んだ。

 福井県鯖江市にあった大手メーカー「カネボウ」の工場に技術者として勤務していた隆さん。毎日夜遅くまで働く猛烈な仕事人間だったが、休みの日には子供たちをスキーや釣りに連れて行くなど家族サービスも忘れなかった。

 「父は子供たちのことばかり考えていた」。小学4年生のとき、福井県の将棋大会で優勝し、「県で1位だから今日からお前はケンイチくんだ」と、大喜びしていた姿を懐かしそうに思い出す。

 高度成長期の多くのサラリーマンと同様、隆さんも会社に対して強い忠誠心を持っていた。飲み物や食品、化粧品、毛糸など家の中にある日用品はカネボウの関連商品ばかり。競合他社の商品は決して買わず、家族にも買わせなかった。

 こんなエピソードもある。激しい雷雨が北陸地方を襲った夜、隆さんは「工場が動かなくなると困るから、ちょっと見てくる」と、出掛ける準備を始めた。家族は心配したが、「行かないといけないんだ」と言い残すと、レインコートを羽織って嵐の中を工場へ向かった。「父は、自分の父が事業に失敗したため、貧しい生活を経験している。名門企業で安定した生活を送りたいという思いが強かったのでは」

 ただ、藤田さんは「安定した先の見える人生」に反発した。同僚と同じ社宅に住み、同じ会社に行き、子供は同じ学校に通う。「安定の代わりに何かを失っている。みんなと同じなのは嫌だ。自分は決してサラリーマンにはなりたくない」と、心に誓っていた。

 高校3年の夏、起業家になることを決意。東京の大学に進学し、「起業への近道」と考え、就職先はベンチャー企業を選んだ。バブル経済が崩壊し、大企業への就職が必ずしも安定を意味しない時代。隆さんは息子の選択を見守るだけで口を挟まなかった。「『言っても聞かない』と分かっていたんでしょうね」

 24歳で起業し、生みの苦しみを経て、26歳で上場を果たす。ネットバブル崩壊など厳しい局面もあったが、アメーバ事業の立ち上げ・強化、スマートフォン(高機能携帯電話)向けサービスの開始などで会社を着実に成長させてきた。「完全な仕事人間。父と同じですね」と笑う。

 即戦力が重視されがちなネット業界の中で、同社はあえて終身雇用を打ち出し、福利厚生を充実させるなど社員が長く働ける環境づくりに力を注ぐ。愛社精神を持ち、毎日生き生きと働いていた父の姿に「少なからず影響を受けている」。

 スマホの急速な普及などもあり、ネット業界は「高度成長期」。愛社精神にあふれる社員とともに、さらなる急成長を目指す考えだ。(竹岡伸晃)

 ≪メッセージ≫

 「元気で頑張っています。時々、孫の顔を見に来てください」

【プロフィル】藤田隆

 ふじた・たかし 昭和20年、山口県生まれ。高校卒業後、カネボウに技術者として入社し、福井県鯖江市の工場などに勤務。同社の経営が悪化した際、同僚らとともに同社の一部門を買い取って独立。現在、顧問として経営に関わる。

【プロフィル】藤田晋

 ふじた・すすむ 昭和48年、福井県生まれ。青山学院大経営学部卒。人材サービスのベンチャー企業勤務を経て、平成10年にサイバーエージェントを起業し、社長就任。12年、東証マザーズ上場。著書に『渋谷ではたらく社長の告白』(幻冬舎文庫)、『起業家』(幻冬舎)など。

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