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対日工作に朱教授利用の疑い

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対日工作に朱教授利用の疑い

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 【佐藤優の地球を斬る】

 東洋学園大学の朱建栄教授が7月17日に中国の上海に渡った後、消息がつかめていない。

 <東洋学園大などによると、朱氏は7月17日ごろ、上海での会議に出席するため訪中。22日ごろに日本に戻る予定だったが、そのまま家族と連絡がとれない状況になったという。

 8月1日、千葉県内に住む家族から大学に連絡があった。大学も朱氏に安否確認のメールを送ったが返信がないという。朱氏から海外出張に関する申請は出ていなかった。

 朱氏は中国籍で、華東師範大を卒業後、1986年に来日した。学習院大学で政治学の博士号を取得し、96年から現職>(8月10日MSN産経ニュース)

 国家安全部の監視下情報

 筆者は、鈴木宗男事件に連座して2002年5月に東京地検特捜部に逮捕されるまで、『世界』(岩波書店)で、世界論壇月報という連載を朱教授らと担当していた。逮捕されたとき、朱教授は私のことを非常に心配し、弁護士経由で励ましのメッセージをいただいた。また、筆者が保釈された後、朱教授は「佐藤さんのように日本の国を深く愛している人がこのようなことになった僕はほんとうに悲しいです」と声をかけてくれた。当時は誰もが筆者と会うことを忌避していた時期だった。朱教授の温かい言葉がうれしかった。

 筆者のところに入ってきた複数の信頼できる情報によると、朱教授は7月18日夕刻から国家安全部の監視下に置かれ、外部との連絡を遮断されているということだ。どうも日本の政府機関に中国の秘密情報を流したという嫌疑がかけられているようだ。朱教授の政治的立場は、中国政府に近い。評論家の中では朱教授を「中国政府の代弁者だ」と批判する人もいる。筆者の理解する朱教授は、中国の愛国者である。それだから、いかなる状況においても自国政府の立場をできるだけ日本人に理解させることに発言の力点を置いていた。

 この点では、筆者がロシア人と議論するとき、「日本政府の主張にはちょっと無理があるなぁ」と思っても、日本側の主張の弱い部分については適宜、体をかわし、強い部分を前面に出して議論するのと似ている。国際問題や外交の評論に「純粋中立」の立場などない。自国の立場をおのずから擁護するようになるというのは、国民国家体制の中で生きている有識者としては、当然の態度と思う。

 朱教授は、対日関係をめぐる中国政府の内部抗争に巻き込まれてしまったのではないかと筆者は懸念している。中国筋は、朱教授が拘束された可能性やスパイ容疑がかけられているなどという情報を段階的にリークしている。日本の政府とマスメディアがどのような反応をするのか探っているのであろう。そして、国家安全部は、大きな事件に仕立てるか、それとも、事件化せずに静かに処理するかについて、慎重に検討しているのだと思う。

 朱教授は、中国外交部(外務省)とは良好な関係を持っている。朱教授が日本のスパイという話を作れば、対日政策において国家安全部が外交部を牽制(けんせい)することができる。

 また、「朱建栄教授のような中国政府よりの知識人でも弾圧されるならば、中国に少しでも批判的な見解を述べたら、どのような目に遭わされるかわからない」と中国の日本専門家は、強い不安を抱くようになる。さらに日本に在住している中国人たちも、政治的発言に関して慎重になる。国家安全部にとっては、一石二鳥の事件になる。

 9月11日の尖閣諸島国有化1周年に向けて、中国の対日強硬派が謀略を展開する危険を過小評価してはならない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

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