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社会
【震災1000日】「来てもらうことが復興につながる」 三陸鉄道・新人運転士、小松翔さん
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朝の連続ドラマ「あまちゃん」で一躍脚光を浴びた三陸鉄道。ヒロインの能年玲奈(のうねん・れな)さん(20)が連発した、驚きを表現する「じぇじぇじぇ」は社会現象にもなり、今年の流行語大賞にも選ばれた。
11月末の昼下がり。三陸鉄道北リアス線・久慈駅(岩手県久慈市)を定刻通りに滑り出した列車は、海岸沿いにさしかかると車内の空気が一変した。11月1日に運転士として独り立ちしたばかりだが、おもむろにマイクを握り、運転席から静かに語りかけた。
《この先、次の野田玉川駅までの間は、先の東日本大震災で、三陸鉄道が大きな被害を受けたところを通って参ります》
手元のレバーを微妙に動かし、列車のスピードを少し落とす。談笑していた団体客らは一斉に立ち上がり、窓の外に視線を向けた。その先には壊れたままの堤防や建設途中の防潮堤といった被災地の「今」が広がる。民家が押し流された更地で、慌ただしく稼働する重機も沿岸部に欠かせない風景の一部になった。
「あそこも津波の爪痕かな」「本当に怖かっただろうね」。団体客は思わず息をのみ、カメラのシャッターを押していく。その様子を横目で確認すると、かすかにうなずいた。
「訪れてくれた人にはありのままの姿を見てもらいたい。多くの人が足を運んでくれることが、被災地の復興につながる」
入社は震災が起きたばかりの2011年4月。三陸鉄道では12年ぶりの新卒採用だった。だが、津波で駅舎や鉄橋が流され、すぐに運行が再開できたのは全線(107.6キロ)の3分の1にあたる36.2キロだけ。「本当に就職できるのか」。震災から入社までは不安な日々を過ごした。
先行きも見通せないような状況で、被災した企業から内定を取り消される同級生もいた。それでも予定通り採用された。「復興を担う若い世代に期待する」。望月正彦社長(61)の決断だ。入社後は、がれきの撤去から始動し、そこで鉄道の力に触れた。
再開を待ちわびる沿線住民らが、自発的に駅や線路の清掃などを買って出てくれた。翌年4月1日の北リアス線田野畑-陸中野田間の運行再開では、駅を住民が埋め尽くし、大漁旗で列車を見送ってくれた。
地元に愛され、支えられているのが三陸鉄道だ-。「受け入れてくれた会社や傷つきながらも支えてくれた地元に、恩返しがしたい」との思いを強くした。
岩手県大船渡市でワカメ養殖する家庭に育った。地元での就職を希望し、高校の担任から三陸鉄道の運転士募集の話を聞き、飛びついた。運転士に憧れていたわけではない。むしろ運転席にこもるだけの暗いイメージを持っていた。
そんな考えを先輩の背中が変えてくれた。運転席にあるバックミラーで車内の様子を観察し、大きな荷物を抱えた観光客を見つけると絶景場所で速度を落とす。血の通う気配りの運転に迷いは消え、恩返しのヒントも得た。
「自分一人の力では何もできないかもしれない。でも、被災地が盛り上がるような運転をしていく」
今年6月、運転士の国家試験に合格した。東北運輸局管内で今年の最年少。決して雄弁ではなく、まだまだ技術も未熟だと思うが、この決意に揺らぎはない。
11月末の運行。団体客を乗せた列車は、堀内駅にさしかかった。この駅は「あまちゃん」で「袖ケ浜駅」として登場した。運転席でふっと息を吐くと、再びマイクを握った。
《次の駅は、あまちゃんで袖ケ浜駅として…。2分間停車させますので、記念撮影に時間をお使いください》。団体客から歓声が沸き、乗り合わせた地元住民にも笑顔がはじけた。(森本充、写真も/SANKEI EXPRESS)
≪被災鉄道68路線が復旧≫
東日本大震災では、鉄道の76路線が被災した。国土交通省によると、現在、68路線が復旧済み。三陸鉄道やJR石巻線など6路線も一部区間で復旧している。
東北新幹線は、仙台駅など5駅が被害を受けたほか1000所を超える電柱や橋などが損傷したが、被災1カ月余りが経過した2011年4月29日に全線で運行を再開した。東北線や奥羽線などの在来主要線も4月21日までに運行を再開した。
しかし、沿岸部の路線は大きな被害を受け、山田線(宮古-釜石)などでは鉄道で復旧させるかも含め検討が続く。運行再開のめどがたたず、気仙沼線(気仙沼-柳津(やないづ))など、BRT(バス高速輸送システム)で仮復旧の本格運行を開始する路線も出ている。
三陸鉄道は北リアス線、南リアス線ともに被災し、順次、復旧工事を進めた。今年4月3日には南リアス線(盛(さかり)-吉浜)で運行を再開、来年4月には全線で運行を再開できる見通し。(SANKEI EXPRESS)