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ノンフィクション作家・猪瀬氏の説明責任

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ノンフィクション作家・猪瀬氏の説明責任

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辞職を表明した記者会見で、質問に答える東京都の猪瀬直樹知事=2013年12月19日、東京都庁(早坂洋祐撮影)  【佐藤優の地球を斬る】

 12月19日、猪瀬直樹東京都知事がついに辞任した。医療法人「徳洲会」から受領した5000万円の趣旨、さらにそれをなぜ銀行ではなく現金で貸金庫に保管していたかなどに関する合理的説明を猪瀬氏は一切していないので、辞任は当然だ。

 辞任を発表した記者会見での猪瀬氏の以下のやりとりを聞いて、筆者は怒り心頭に発した。

 ――5000万円を借りたことの後悔はあるのか

 猪瀬氏「お借りすべきではなかった。政治家をよく知らないアマチュアだったなと思う。物の考えが至らず、やや傲慢になっていたと反省している」

 ――具体的に「おごり」とは何か。都知事として何がやりたかったのか

 猪瀬氏「政策について自分はかなり精通していると思っていたが、政務ではアマチュアだった。政治家として、ずっとやってきた人は、何を受け取ってはいけないかは分かっている。自分は政策をやればよいと傲慢なところがあった」>(12月19日MSN産経ニュース)

 「本物のニセモノ」

 「政治家をよく知らないアマチュア(素人)」「政務ではアマチュアだった」とは、いったいどういう意味なのだろうか。東京は日本の首都である。東京都知事は、都民だけでなく、国民全体に大きな責任を負う。「私は政治の素人でした」という猪瀬氏の発言に、人間的誠実さのかけらも認められない。

 猪瀬氏が知事に当選した直後、筆者は辛口経済評論家の佐高信氏と対談した。対談の冒頭で、筆者は、「佐高さん、たいへんです。『本物のニセモノ』が知事になりました」と思わず口にしてしまった。残念ながら、この直観は当たっていた。「徳洲会」からの5000万円受領が明らかになってから、猪瀬氏は、国民、マスメディア、都議会に対する説明責任を一切感じていないようだ。猪瀬氏の関心は、「いかにして司直の手にかかることを防ぐか」ということに集中していた。それだから、刑事責任を追及される可能性がある事柄については、曖昧な発言に終始したのだ。猪瀬氏の反省は、「悪かった。悪かった、運が悪かった」という類のもので、誰もその釈明や謝罪に納得していない。

 「鬼の特捜」(東京地方検察庁特別捜査部)に逮捕されたことのある筆者の経験に照らして、近未来に猪瀬氏に特捜部から呼び出しがある。特捜検事に嘘は通用しない。特に猪瀬氏が公表した5000万円の領収書の真贋(しんがん)が特捜部の重大な関心事項の一つになると思う。

 インタビューし公表を

 猪瀬氏は、大御所のノンフィクション作家であるという自負を持っているはずだ。それならば、特捜の取り調べに応じるのとは別に、5000万円をめぐる真実を、ノンフィクション作家の職業的良心に従って、国民の前に明らかにすべきだ。筆者が『自壊する帝国』(新潮文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したときの選考委員の一人が猪瀬氏だった。不肖、筆者としてもそのときの「お礼」をしなくてはならないと思っている。力不足で恐縮だが、「徳洲会」と猪瀬氏との関係、特に5000万円の現金授受の詳細について、筆者は猪瀬氏からインタビューを取り、国民に公表したいと考えている。特捜検事のように、あらかじめ決まった筋書きを押しつけるようなことは絶対にしないので、猪瀬氏におかれては、取材を受けることについてぜひ前向きに検討していただきたい。

 猪瀬氏のような、他者に対して厳しく、自分に対して甘い人間がどのようにして形成されたのかについて、筆者は、強い関心を持っている。「政治の素人だ」と開き直るような「本物のニセモノ」が二度と政界に出てこないようにするために、猪瀬直樹研究が必要だ。こういうことがあると筆者自身、ノンフィクション作家であることが恥ずかしくなる。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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