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朱教授、半年ぶりに解放 習政権の意図は…

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朱教授、半年ぶりに解放 習政権の意図は…

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東洋学園大学(東京都)の朱建栄教授(共同)  【佐藤優の地球を斬る】

 中国当局に身柄を拘束されていた東洋学園大学の朱建栄教授が、上海の実家に帰宅することが許された。

 <昨年7月から上海で消息不明となり、中国当局に身柄を拘束されていた東洋学園大学(東京都)の朱建栄教授(56)について、同大学は24日、朱氏が解放され、今月17日に上海市内の家族宅に戻ったと発表した。健康状態は良好で、来月以降に日本に戻る見通しという。

 同大学によると、朱氏は(1)研究者としての資料収集が中国の法令に触れていないか(2)相互理解を掲げた日中両国間での活動の内容-について、当局の調査を受けてきた。朱氏は同大学に対し、「研究者としての活動に不適切なものはなかった」との内容を述べた。

 朱氏は1957年、上海出身。86年に来日し、同大学教授を務める一方、在日中国人研究者らで作る「日本華人教授会」の初代代表として、日中関係について活発な言論活動を行っていた。

 これまでの情報によると、朱氏は情報機関である中国国家安全省に身柄を拘束され、日本での活動などについて事情を聴取されていた。朱氏は高齢の実母の介護を兼ねて上海市内にとどまっているというが、拘束中の事情について語れる状況かどうかは不明だ>(1月24日MSN産経ニュース

 主張違えど擁護報道

 朱氏は筆者の大切な友人である。2002年5月に筆者が鈴木宗男氏をめぐる事件に連座し、逮捕されたときも、弁護士を通じて独房に『史記列伝』を差し入れてくれた。「中国古典から窮地に陥ったときの身の処し方を学んで頑張れ」という朱氏からの温かいメッセージだった。朱氏の身柄拘束が解かれ、ほんとうに良かった。

 今回の朱氏をめぐる不可解な事件については、産経新聞が深い取材に基づいて積極的に報道していた。筆者は、この間の産経新聞の報道姿勢に敬意を表している。

 朱氏は、論壇で中国政府の主張を過剰と思えるほどに主張した。10年9月の尖閣諸島の久場島領海において中国漁船が日本の海上保安庁巡視船に意図的に衝突した事件についても、朱氏は中国漁船は過って衝突したという主張を展開した。また、尖閣諸島の領有権係争について、棚上げにする日中合意を証明する記録が中国側にあると朱氏は、日本のマスメディアで積極的に説明していた。

 朱氏の言説は、産経新聞の社論とは正面から対立する。朱氏が、中国で消息不明になった後、産経新聞は朱氏が中国のインテリジェンス機関である国家安全省によって拘束されているという情報をいち早く報じた。このことによって、多くの人々が、人道的観点から朱氏の状況について強い関心を持つようになった。たとえ立場が対立していても、公権力から不当な取り扱いを受けている学者に対して、人権を回復するという観点から産経新聞が独自取材に基づく報道を続けた。それだから、筆者は産経新聞が好きなのである。

 「外交カード」に利用

 朱氏の夫人は日本人で、2人の子供も日本国籍を有している。中国政府は、人道的観点から一刻も早く朱氏の出国を認め、日本の家族とともに暮らせるようにすべきだ。日本外務省も人道的観点から、中国外交部に然るべき働きかけをしてほしい。

 同時にこのタイミングで、中国が朱氏を釈放したのは、日本に向けた習近平政権のシグナルでもある。「朱氏を日本のスパイとするような事実無根のキャンペーンは止めるので、実務者レベル(具体的には両国外交官)での関係を強化したい」というメッセージだと、筆者は解釈している。それにしても中国は、日本と価値観の異なる恐ろしい国だ。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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