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侮ってはならない金正恩第1書記の改革 「革命家の血筋」も粛清
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北朝鮮をめぐる最近の主な動き=2011年12月19日~2013年12月13日
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の叔父の張成沢(チャン・ソンタク)氏・元国防副委員長が12月12日、特別軍事裁判で「国家転覆の陰謀行為」を理由に死刑判決を下され、ただちに処刑された。
(12月)8日行われた朝鮮労働党政治局拡大会議で、反党・反革命的な分派行為や不正・腐敗を働いたとして、すべての職務から解任されたばかりだった。
会場から張氏が警官によって連行される映像を見て、平壌にある外国文出版社から今年、日本語で刊行された金第1書記の著書『最後の勝利をめざして』に記されたイデオロギー転換が本格的に始まったと思った。
本書では、従来の「金日成(イルソン)主義」に代わって「金日成・金正日(ジョンイル)主義」が北朝鮮の指導思想になっている。
スターリンは、従来の「マルクス主義」から「マルクス・レーニン主義」という新しいイデオロギーを構築するとともにトロツキー、ブハーリンなどのライバルを「分派活動をした」「資本主義の復活を幇助(ほうじょ)した」などの罪状で粛清した。金正恩は、スターリンから権力基盤確立の技法を学んでいるのだと思う。
『最後の勝利をめざして』には、万景台革命学院、康盤石革命学院創立65周年に際して学院の教職員、生徒に送った書簡が収録されている。書簡の日付は、2012年10月12日だ。金第1書記は、北朝鮮のエリート候補生である万景台革命学院と康盤石革命学院の関係者に対して重大な警告を行ったのだ。
革命家の血筋を引いているからといって、その子がおのずと革命家になるわけではありません。
偉大な大元帥たちが述べているように、人の血は遺伝しても思想は遺伝しません。
革命思想は、ただ絶え間ない思想教育と実際の闘争を通じてのみ信念となり、闘争の指針となり得るのです>(132ページ)
「革命家の血筋を引いているからといって、その子がおのずと革命家になるわけではありません」というのは、金正恩体制下で今後、エリートを流動化させるという宣言だ。叔父である張氏はまさに「革命家の血筋を引いている」が、粛清された。
また、北朝鮮エリートにとって今後、重要になる知識が「数学をはじめ基礎科学教育」であると強調する。
学院で基礎科学教育を強化することは、生徒に自然と社会についての幅広い知識を与え、将来、専門分野の最新科学と先端技術を習得できる基礎を築くきわめて重要な事業です。
基礎科学教育は、生徒に事象に作用するさまざまの法則と原理を関連づけて考察し、学んだ知識を現実に活用して新しい物を着想し探究する知的能力をそなえさせることに基本を置かなければなりません>(136ページ)
古い世代のエリートを粛清し、数学と理科系の基礎学力が強い若年層を北朝鮮エリートの中核に据えるというのが金第1書記の戦略だ。
北朝鮮国家を中長期的に強化するという方向性にかんがみて、エリートの世代交代を促進し、数学力の強いエリートを登用するという方針は、戦略的かつ合理的だ。金第1書記が進める改革を侮ってはならない。日本の外務省は本格的調査を始める必要がある。
わが国としても、数学教育で北朝鮮に後れを取らないようにしなくてはならない。今後の国家の命運は、理数系に強い人材をどれくらい育成するかにかかっている。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(さとう・まさる)/SANKEI EXPRESS)