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米国の「事なかれ主義」が招く中東危機

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米国の「事なかれ主義」が招く中東危機

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 【佐藤優の地球を斬る】

 11月24日にスイスのジュネーブで行われたイランと米・露・英・仏・中・独6カ国の外相協議で、イランがウラン濃縮活動などの核開発を縮小し、その見返りにイランへの制裁を一部緩和する「第1段階の措置」が合意された。

 <2006年から行われてきたイランと6カ国の核協議で合意に至るのは初めて。02年に発覚したイランの核兵器開発疑惑の解消に向けて大きな一歩を踏み出した。

 イランで保守強硬派アハマディネジャド氏に代わり、8月に就任した保守穏健派ロウハニ大統領にとっても初めての外交的成果。合意通りに進めば、核問題で激しく対立してきた欧米とイランの緊張緩和にもつながりそうだ>(11月24日MSN産経ニュース)

 また11月27日、シリアのアサド政権は、来年1月22日にジュネーブで行われる和平会議「ジュネーブ2」に代表団を派遣することを明らかにした。アサド政権は声明で、「テロリズムを排除すること」が会議に参加する主目的だと説明。その上で、「自らの将来と指導者を決める権利はシリア国民のもので、他の国民が決めるものではない」「誰にも権力を譲渡するつもりはない」とし、反体制派や欧米諸国によるアサド政権に対する退陣要求は拒否する姿勢を鮮明にした。

 「これでようやく中東にも平和が訪れる」という見通しは、まったく甘い。イランは核開発を国策として進めている。イランの譲歩は見せかけに過ぎない。「第1段階」においても、イランが、ウランの5%濃縮を行う技術を維持することが認められている。イランの核開発は、ロウハニ大統領ではなく、ハメネイ宗教最高指導者によって行われている。ハメネイ氏は、核開発の意志を放棄していない。また、イランの改革派も国民も核開発を支持している。

 イスラム原理主義とペルシャ帝国主義が結合したイランの危険な国家戦略が変更されていないのに、米国がこのような融和的姿勢を示したことをイランは最大限に利用する。今回の合意は、イランに核開発を推進する時間と資金を提供する機会を与えたに過ぎない。

 また、オバマ政権がシリアに対する武力行使を断念したために、自国民に対して化学兵器を使用するようなアサド政権が延命することになってしまった。

 このような米国の優柔不断な態度に、「果たして米国との同盟は機能するのであるか」という懸念をサウジアラビアやエジプトが抱き始めている。

 米国の中東政策は、価値観を共有するイスラエルとの同盟を基本にして、そこにヨルダン、サウジアラビア、エジプト、トルコなど、欧米と共存共栄が可能な諸国との同盟関係を強化することによって成り立っていた。イランやシリアのような、国際的に確立されたゲームのルールを一方的に変更するような諸国のごり押しに対して、米国は力を行使してでも毅然(きぜん)と対応することによって、中東諸国間のバランスが保たれていた。

 今回、米国がイランとシリアに対して、「棲み分け」政策、すなわち「事なかれ主義」に転換するというシグナルを送った。このことにサウジアラビアとエジプトが強い衝撃を受けている。米国がいかなる状況でも中東への軍事介入を行わないという見通しをイスラム原理主義過激派が持てば、かかる勢力がサウジアラビアとエジプトの政権転覆を図る。オバマ政権が作り出しつつある「力の空白」が中東の大混乱を招く危険がある。日本外務省の中東に関して、独自分析を行い、あり得べき危機に備えなくてはならない。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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