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オーロラを目指す旅(下) 太陽昇らぬ「極夜」の世界
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極夜が続くノルウェー北部の街、ナルビク。「ヨーロッパ最北の駅」では、鉄鉱石を満載した貨物列車が行き交っていた=2013年12月8日(桐原正道撮影) デンマークの首都コペンハーゲンを起点に、鉄道周遊券「ユーレイルパス」を使って列車を乗り継ぎ、北欧を縦断する旅を体験した。目的はノルウェーでオーロラを見ることだ。
ノルウェー中部の都市トロンハイムから乗った夜行列車は寒波の影響からか車両トラブルが発生し午前5時前、途中のグロング駅で立ち往生した。前夜から約5時間で進んだ距離は220キロ、目的地のボードーまで500キロ以上も手前だった。
ここから代行バスや路線バスを4回乗り継ぎ、17時間のバスの旅が始まった。
代行バスの車内で文句を言う乗客の姿はない。国民性なのだろうか、諦めているのか、日本なら車掌に詰め寄る乗客がいそうなものだ。当の車掌は最後部の座席で目を閉じていた。
途中のドライブインで積み込んだオープンサンドとホットコーヒーが乗客に配られた。酵母パンにトマトやサラミ、チーズがのっていてとてもおいしかった。車内に設置された温度計に目をやると外気温は氷点下28度を示している。車内は暖房が適度に効いており快適だった。
バスを乗り継ぎ、午後10時過ぎにたどり着いたのは北極圏の地方都市、ノルウェーのナルビクだ。ナルビクは北緯68度に位置しており、冬の11月下旬から1月にかけて、太陽が一日中昇らない「極夜(きょくや)」となる。北極圏で極夜と聞くと、極寒を覚悟していたが、意外と寒くない。北大西洋海流の影響から1月の平均気温は氷点下2.1度と比較的温暖だ。それでも油断は大敵。鼻で息をしていると、すぐに寒さを通り越して痛みに襲われた。
≪突然現れた幻想的な光のショー≫
ロープウエーで街を一望する展望台に登った。時刻は午後2時半。夜のように暗い眼下にはオレンジや黄色など暖色の灯りに包まれた町並みが広がり、鉄鉱石を満載した貨物列車がゆっくりと進んでいく。「ヨーロッパ最北の停車場」として知られる、ノールラン鉄道のナルビク駅だ。
ナルビクは隣国・スウェーデンのキルナ鉱山で産出した鉄鉱石を船で積み出す玄関口として発展。第二次世界大戦中は、ドイツ軍と連合国軍が港湾施設をめぐり激戦を繰り広げた。現在は年間約1500万トンの鉄鉱石が、ここから欧州各国や需要の旺盛な中国などへと運ばれていく。
鉄道の旅はここまで。ナルビクからはバスと沿岸急行船「フッティルーテン」を乗り継ぎ、さらに北を目指した。ナルビクからバスを走らせること約2時間。イブンスクジャーの町に差し掛かったあたりで、突然、車窓が淡く輝いた。「こんな早い時間に大きなオーロラが出るのは珍しいよ」。バスの運転手、アトレ・ステンセンさん(52)は、そう話すと、道路脇にバスを止めた。オーロラは午後9時過ぎから見られることが多いという。時刻は6時半だった。
夜空を覆うオーロラは、ゆらゆらとカーテンのように揺れながら姿を変える。地平線の近くで瞬いていたエメラルドグリーンの光は、気がつくと全天にわたり、時折ピンク色に輝いた。自然が演出する幻想的な光のショーを白い息をはきながら見守った。(写真・文:写真報道局 桐原正道/SANKEI EXPRESS (動画))