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中国 深刻な大気汚染 解決には「長いプロセス必要」
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中国環境保護省はこのほど、北京、上海など全国主要74都市の昨年(2013年)の大気汚染状況を発表した。北京周辺地域では、微小粒子状物質「PM2.5」が中国政府の定めた基準値の3倍という深刻な汚染状況であることが分かった。
北京と隣接する天津、河北省全体の昨年(2013年)の大気1立方メートル当たりのPM2.5は年平均106マイクログラムで、中国政府が定めた年平均35マイクログラムを大きく上回った。全国74市で国の基準値以下だった都市はチベット自治区ラサなど3都市にすぎなかった。全都市の年平均は72マイクログラム。
全国的には北京周辺と、上海周辺、広東省南部の三大都市部の汚染が比較的深刻で、上海周辺のPM2.5は年平均62マイクログラム、広東省南部は53マイクログラムだった。
環境保護省は大気汚染の原因として(1)汚染源である重工業工場の集中度が高い(2)産業を環境配慮型に転換できていない(3)自動車の増加など都市化の影響-を挙げた。例えば、北京周辺、上海周辺、広東省南部は全国面積の8%を占めるにすぎないのに、鉄鋼の55%、コンクリートの40%を生産、全国の石炭の43%を消費しているという。
こうした現状に対して政府も対策に乗り出す。中国の李克強首相は、微小粒子状物質「PM2.5」を含む大気汚染について「重要な国民生活問題になっている。粗放な生産方式を改めなければならない」と述べ、対策の強化を表明した。
PM2.5をめぐっては、日本の環境省が2月28日、8府県で大気中濃度が国の暫定指針値を超えたと発表するなど、日本への影響が懸念されている。
李首相は汚染に対して「宣戦布告」するとし、工場などが汚染原因となる物質を違法に排出する行為について「決して手を緩めず、厳しく対処する」と強調。「見て見ぬふりをしたり、監督管理を怠ったりした当局者」の責任も厳しく追及するとした。
改善の見通しについては「有害物質を含んだ濃霧発生の原因は複雑。(抑え込みには)長いプロセスが必要」と述べ、「難題解決に向けてたゆまぬ努力を続けよう」と呼び掛けた。
≪成長優先 対策は「二の次」≫
中国北京市では深刻な大気汚染が続き、在中国米大使館サイトによると、微小粒子状物質「PM2.5」を含む汚染指数は最悪レベル(危険)の413となった。国務院(政府)などはさまざまな対策を打ち出しているが、効果は上がっていない。
北京市はスモッグで覆われ、数百メートル先のビルが白色にかすんだ。車両は日中もヘッドライトを点灯。政府が外出を控えるよう呼び掛ける中、街中ではマスクをしていない人も多い。会社員の女性(27)は「己の抵抗力を信じている」と苦笑した。
政府系研究機関の専門家は「国を挙げて汚染対策に取り組んでも、解決には5年かかる」と分析する。習近平指導部は経済成長優先を政策に掲げており、汚染対策は「あくまでも二の次」(中国人研究者)との見方が主流だ。
そんな中、中国南部の貴州省が、省内の自然保護区などの新鮮な空気を入れた缶詰を製造・販売する計画を立ち上げたことを明らかにした。習近平国家主席の提案がきっかけ。富士山で記念品として売られ、かつて話題となった「空気の缶詰」を参考にするという。3月21日付の中国紙、新京報が伝えた。
習氏は国会に相当する全国人民代表大会で3月、北京などの深刻な大気汚染を念頭に貴州省のきれいな空気をたたえ「空気の質は国民の幸福感と密接に関わっている。貴州は“空気の缶詰”を売ればいい」と発言。これを受け、計画がスタートしたという。貴州省は計画の具体化に向けたアイデアを公募。幹部は「富士山の成功例もあり、やる気十分」と意気込むが、インターネット上では「ただの習近平へのごますり」と冷ややかな声も上がっている。
微小粒子状物質のPM2.5などによる汚染が深刻化している中国では、実業家がきれいな空気を詰めた缶を売り出すなど空気を扱ったビジネスが出始めている。(北京 共同/撮影:ロイター、AP/SANKEI EXPRESS)