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経済
「新章」に突入する金融政策
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「(利上げの)時期や方法に関する個人的な見解を披露することが適切とは思わない」
米カンザスシティー連銀のエスター・ジョージ総裁(56)が先月(3月)の講演で語った言葉には、戸惑いが色濃くにじんでいた。どう発言しても、市場に材料視されるのではないか-といった思いをジョージ氏が抱いたとしても今は不思議ではないだろう。
米連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長(67)が早期のゼロ金利解除を示唆したとされる発言が波紋を広げている。着々と進む量的金融緩和の縮小の次の段階として、事実上のゼロ金利政策の解除が焦点となってきたためだ。ただ、市場はFRBの真意を測りかねている。
そのイエレン氏の発言は、議長に今年就任してから初めて主宰する3月の連邦公開市場委員会(FOMC)の記者会見で飛び出した。イエレン氏は量的緩和を終えてから事実上のゼロ金利政策の解除まで要する期間について、「6カ月程度だろう」と指摘。FRBは政策指針でのゼロ金利解除につながる失業率基準(6.5%)も撤廃した。そこにイエレン氏の発言が重なり、来春の利上げの可能性を示唆したものと受け取った市場は株価が乱高下した。
米経済は企業業績と個人消費が堅調に推移し、景気動向を敏感に反映する就業者数も増加基調にあるなど、緩やかな改善が続いている。年初に米国を襲った記録的な寒波の影響も和らぎ、イエレン氏も会見で、「経済は見通しにおおむね沿って推移している」と影響は限定的との見方を示している。
FRBが量的緩和の縮小を決めるのは今回で3度目。新興国の経済不安に伴う市場の動揺などがその間あったにもかかわらず、一度も休止を挟んでいない。緩和縮小路線が“定着”した印象が強いうちに、「次の焦点のゼロ金利解除も市場に徐々に織り込ませたいのでは」(米銀関係者)との見方もある。
一方で、FOMCの声明自体は、量的金融緩和を終えても「相当の期間」ゼロ金利を続けると指摘している。議長の発言も、その「相当の期間」とはどれぐらいを指すのかというある記者の問いかけに対して、「定義するのは難しいが、おそらく6カ月程度だろう」と答えたもので、さらに「声明も状況次第と指摘している」と続けており、前後の文脈を含めれば必ずしも踏み込んだ発言といえないとの指摘も聞かれる。
米経済とFRBのウォッチャーとして知られるIHSグローバルインサイトの著名エコノミスト、ポール・エデルスタイン氏は「新人選手のエラーといったところでは。なにせイエレン氏にとって最初の記者会見だった」と半ば同情し、不安定な発言に過剰反応すべきでなく、「来年後半まで利上げはない」との見方を変えないとした。
イエレン発言を受け、FRBでは金融引き締めに慎重なハト派とされる幹部も“火消し”に懸命になっている。サンフランシスコ連銀のジョン・ウィリアムズ総裁(51)は先月(3月)、米メディアに対して、「われわれは金融引き締めを早めるとは示唆していない」と強調し、利上げは来年後半と予想した。ハト派寄りのアトランタ連銀のデニス・ロックハート総裁(67)も利上げは量的緩和終了後から少なくとも半年後とし、「実際はもっとかかるのでは」と述べている。金融引き締めに積極的なタカ派とされるカンザスシティー連銀のジョージ氏ですらも、冒頭紹介したように慎重な言い回しだ。
一方で、やはりタカ派のセントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁(53)は「民間調査でも(議長と)同様の(早期利上げ)予想が示されている。議長はそれを繰り返しただけだと思う」と指摘。市場は来春のゼロ金利解除も視野にあり、イエレン氏の発言自体に違和感はないとの見方を示している。
当のイエレン氏は3月末の講演で、ゼロ金利解除の見通しについて直接の言及は避けながらも、「多くの国民にはまだ景気後退のように感じられている」と述べ、引き続き緩和的な金融政策で米景気を支える姿勢をにじませた。自身の発言の余波に慎重になったともとれる。
ただ、量的緩和縮小の次の金融政策の転換点としてゼロ金利解除が焦点になってきたのは確か。ある米銀エコノミストも「FRB内で議論が今後加速する」と指摘している。(ワシントン支局 柿内公輔(かきうち・こうすけ)/SANKEI EXPRESS)