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社会
「風評被害を助長」 福島知事が批判 鼻血描写「美味しんぼ」の波紋
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主人公が流した鼻血の描写などが問題になっている漫画「美味しんぼ」と福島県のコメント=2014年5月12日、東京都千代田区大手町(大西史朗撮影) 主人公らが東京電力福島第1原発を訪問後に鼻血を出すなどの姿を描いた小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の漫画「美味(おい)しんぼ」が波紋を広げている。5月12日発売号では、「今の福島に住んではいけない」との表現があるほか、大阪市で震災がれきを処分した処理場周辺でも鼻血を出すなどする住民が多発していると説明した。これに対し、福島県や大阪市が小学館に抗議。閣僚からも批判が相次いだ。
菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は12日の会見で、「美味しんぼ」の問題について「住民の被曝(ひばく)と鼻血に因果関係があることは考えられない。科学的見地に基づいて正確な知識をしっかりと伝えていくことが大事だ」と述べた。
最新の5月12日発売号に掲載された「美味しんぼ」では、岐阜環境医学研究所の松井英介所長が、震災がれきを受け入れた大阪市の焼却場近くの住民が「放射線だけの影響と断定はできないが、目や呼吸器系の症状が出ている」「鼻血、目、のどや皮膚などに、不快な症状を訴える人が約800人もあった」などと説明。「(放射線の)影響は十分考えられる」とした。
さらに、4月28日号で「私も鼻血が出る」「福島では同じ症状の人が大勢いる」などとしていた福島県双葉町前町長の井戸川克隆(いどがわ・かつたか)氏が「今の福島に住んではいけない」などと発言する姿が描かれていた。
福島県は12日、「本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず、極めて遺憾」とするコメントをホームページに掲載。「美味しんぼ」と小学館の出版物について、科学的知見や丁寧な調査に基づいた偏らない客観的な表現にするよう、強く申し入れているとした。
佐藤雄平知事(66)は12日、講演のため訪れたさいたま市で取材に応じ、「風評被害を助長するような印象で、極めて残念」と批判。「福島に住んではいけない」とする記述などについては「今は福島県民が一丸となり、全国から復興を支援していただいている時で、このような雰囲気の漫画があって、残念で遺憾」と繰り返した。
大阪府と大阪市も12日、事実と異なるとして、小学館に抗議文を郵送したと発表した。橋下(はしもと)徹市長(44)は、「漫画なので基本的には自由だが、根拠のない話だと表現の自由の範疇(はんちゅう)外。取材が甘すぎるのではないか」と指摘した。
オーストラリア在住の原作者、雁屋哲(かりや・てつ)さん(72)は自身のブログで「ある程度の反発はおり込み済みだったが、ここまで騒ぎになるとは思わなかった。福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない」とコメント。小学館広報室は、産経新聞社の取材に対し、「(現在連載中の)『美味しんぼ』の『福島の真実』編は復興を応援したいという目的で始めた。次週発売号で特集記事を掲載するので、これを見てもらいたい」と話している。
漫画家の弘兼憲史(ひろかね・けんし)さん(66)は「作者が相応の覚悟を持って表現しようとするのなら、それは貫くべきだ。ただし(今回のような)騒ぎになることは想定しておくくらいの自覚は必要だったかも。『美味しんぼ』のような影響力の大きい作品は、出版社側にも一定の慎重さが求められると思う」と疑問を投げかけている。(SANKEI EXPRESS)
≪「科学的にありえない」≫