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【勿忘草】初めての舞台
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文化部に異動になって新鮮だったのは「舞台」を見る機会を得たことだ。初めてのオペラ、初めての劇団四季…。意外に客席との距離が近い舞台で生身の人間が踊って歌うさまは迫力満点。興奮冷めやらぬまま帰途につくことが多い。
先日は東京・新国立劇場で「テンペスト」を観劇した。シェークスピアの名作が、斬新な演出で現代的な舞台に変身。古谷一行さんらドラマでよく見ている俳優が存在感のある演技を見せ、素人でも十分楽しめた。
知らなかった世界に足を一歩踏み入れつつあるおもしろさ。そして、舞台自体も魅力があるのだが、そこに集ってくる観客が醸し出す雰囲気が、これまたいい。
たいていの舞台で夜の部は午後6時半とか7時に始まる。私は「仕事の一環」とうそぶいて出かけるが、多くの会社員は駆けつけるのが難しい時間だろう。そんななか、やりくりして(上司に言い訳して?)好きな舞台を楽しむ。9時半ごろに幕が下りたら、感動を語り合うもよし、一杯引っかけるもよし。心がとても自由になる時間と空間を得ている様子なのだ。
学生時代に旅行したイタリア北部の街では、市民が仕事を終えた夜にクラシックのコンサートに出かけ、終わると空気のいい高原の小屋に集って酒を酌み交わし、余韻を楽しんでいた。とても華やかで、さざめいていた。「日本にはない光景だ」と面食らったことを覚えている。
日本でも私が知らないだけで、その光景があった。
最近、労働時間の規制を外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」が話題になっている。「短時間に成果を出す人よりだらだら長時間残業している人の方が賃金が高いのはおかしいので是正する」という趣旨もあるというが、一般会社員には「残業代がゼロになるかも」という危惧が強いようだ。
これを口実に賃下げの方向に進んでは非常に困るが、メリハリをつけた働き方は推奨されてもいい。
昼間は仕事をバリバリこなして、夜は芸術を楽しむ…。毎日とはいわないが、たまにはそんな時間を持つゆとりは人を豊かにしてくれると信じたい。(小川記代子/SANKEI EXPRESS)