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駄目な人が生き生き 見ても演じても面白い 鈴木聡、稲垣吾郎 舞台「恋と音楽II~僕と彼女はマネージャー~」
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SMAPの稲垣吾郎(40)がここ10年間で出演した舞台のおよそ半分は、意外なことに、サラリーマンにファンの多い劇団「ラッパ屋」の鈴木聡(55)の脚本作だ。その鈴木と稲垣が、6月13日から上演の「恋と音楽II~僕と彼女はマネージャー~」で再びタッグを組む。前作「恋と音楽」(2012年)は脚本のみだった鈴木が今回は演出も手がける。おしゃれでハートウオーミングなミュージカルコメディーだ。
鈴木といえば、中年男性のささやかな日常にある心の機微を温かな視点で描く劇作・演出家。その作風を稲垣は、「登場人物はダメな人ばかり。でも生き生きとしていて、見ても演じても面白い」と語る。
今回、稲垣が演じるのは、40歳手前で大物ミュージカル俳優、楠(小林隆)のマネージャーになった男、真壁。「前作までは吾郎くんにつかみどころのない芸術家を演じてもらうことが多かったが、今回は電車で隣に乗っていそうな、普通の男」(鈴木)の役だという。
それを象徴するように、物語の第一場は、マネージャーに就く約10年前、20代の頃の真壁が満員電車に揺られるシーンから始まる。会社の苦情係として勤めながら月謝1万3000円のミュージカル俳優養成学校へ。スターへの夢に燃え、同期の君子(真飛聖(まとぶ・せい))に淡い恋心を覚えた青春時代。だが夢も恋も泡と消えて10年がたち、真壁は君子と再会。君子もまた、大御所女優、洋子(北村岳子)のマネージャーになっていた。
アラフォーというリアルな稲垣に近い設定で描く、奥ゆかしさが漂う大人の恋。鈴木は「30代から40代になるころに誰もが思うであろうことを、(稲垣も)何となく持っている、というように見せたい」という。演じる稲垣も、「今の自分にぴったり。若者のような恋を背伸びして演じるというのもつらいし、年齢によってしっくりくる恋ってあると思う」と話し、最近お気に入りのドラマが「続・最後から二番目の恋」(フジテレビ系)だと明かした。
じっくりと取り組む舞台稽古を、稲垣は楽しんでいるようだ。場面ごとに「こんな経験、いままでなかった?」などと鈴木が問い、キャストが語らうスタイルで、「話しあって気持ちを共有できていくのは、面白い」と語る。また、大ベテランの小林隆が誰より稽古場に早く来て、タップを踏み、稽古開始前に汗だくになっている姿には「素敵ですよ。目が少年のようにキラキラしていて」と刺激を受けているようだ。
佐山雅弘(60)によるジャズをベースにしたおしゃれな楽曲も魅力。鈴木は前回の公演で「歌の力をつくづく実感した」と、今回は曲数も増やし、バンドもギターを追加して5人編成に。
稲垣は「SMAPで歌うときはパフォーマンスを意識するけれど、この作品では純粋に歌うことの楽しさに目覚めています」と充実の様子。普通の男の日常に、違和感なくミュージカルナンバーを溶かし込むのは難しそうだが、「どんなシチュエーションでも成立させくれるところが、さすが。経験豊富な吾郎くんだからこそ」と鈴木も太鼓判を押す。
もとは広告代理店のサラリーマンだった鈴木は、舞台を大きな居酒屋のように楽しんでほしい、と言う。劇中の空気感をみんなで共有して楽しい気分になってほしいのだ。「最近また、サラリーマンの残業が大変になってきていますよね」と働く人々のアフター5の現状を憂いながら、「大人たちが一日の最後に気楽に楽しめるような、わかりやすい作品をつくりたい。このミュージカルもそんな1本になれば」と語った。
鈴木の思いを聞いた稲垣も、「仕事帰りに劇場に立ち寄り、見終わったあとにお酒を交わして、ああだこうだという。そんな風に大人が過ごせば、日常は豊かになる気がしますね」と応じた。
2人が話すように、劇場通いがサラリーマンの日常の一部になったなら…満員電車でつり革につかまりながらタップを踏むサラリーマンが出てくるのかも。そうなれば、毎日がちょっと面白くなるかもしれない。(津川綾子/SANKEI EXPRESS)
6月13日~7月4日 パルコ劇場。劇場(電)03・3477・5858