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福祉車両も「はたらく車」 Tシャツで介護の仕事に興味を
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「チャンネルアッシュ」が展開するブランド「OJICO(オジコ)」の働く車シリーズのTシャツ。右が福祉車両が描かれた新商品(日本財団提供)
介護職員の離職率は高い。公益財団法人「介護労働安定センター」によると、2011~12年は17%と、全産業平均の14.8%を上回っている。その要因として、賃金の低さのほか、「業務に対する社会的な評価が低い」ということが指摘されている。評価が低いのは業務だけではない。現場で使われる「車」も同じだ。
道路には一般の乗用車だけではなく、用途も形もさまざまな車が走っている。パトカーに消防車、救急車など誰もが知っているものから、何に使うのか見当もつかない装置を搭載した特殊車両もある。玩具業界などはこれらを“はたらく車”としてカテゴライズ(分類)し、ミニカーやラジコンといった商品にして販売している。気がかりなのは、どの“はたらく車”シリーズにも、介護現場などで活躍する「福祉車両」が存在しないことだ。
日本財団は1994年度から、介護ヘルパーや施設に通う高齢者の移動をサポートする福祉車両を全国に寄贈している。その数は年間約2000台で、これまでの累計は3万3000台を超えた。要介護者が増える中、需要は高まっている。
消防庁によると救急車は全国に約6000台。一方、日本自動車工業会の調べでは、国内の福祉車両販売台数はこの6年間で約22万7000台。救急車の40倍近い数の福祉車両が走っていることがわかる。しかし、いまだに世の中から“はたらく車”として受け入れられていないのはなぜだろうか。日本財団の福祉車両についても「財団のバンザイマークがついた車はよく見かけるが、誰が乗っていて何をしている車かはわからない」という声が確かに多い。
車両、そして車を利用する福祉従事者への理解を深めてほしいと、日本財団は福祉車両を“はたらく車”として周知する取り組みを昨年(2013年)からスタートした。まずは玩具メーカーの協力を仰ぐため、福祉車両の商品化を持ちかけた。
「福祉車両と聞いても一体何をする車なのか。子供たちもイメージしにくいのでは」。「商品になっても、売れるとは思えません」。最初に当たった大手玩具メーカーから返ってきた答えだった。別のメーカーにも提案したが、いずれも渋い反応。社会に福祉車両を知ってもらおうと商品化を提案しているのに、残念でならない。
何も玩具メーカーだけにこだわることはない。諦めずに探し出会えたのが、「チャンネルアッシュ」。石川県の企業で、子供服や雑貨を手がけている。この会社のブランド「OJICO(オジコ)」は、親子で絵柄がつながるなどストーリー性のあるユニークなデザインのTシャツで人気を集めている。乗り物・働く車シリーズも展開し、消防車やブルドーザーをモチーフとしたTシャツも売り出している。
代表の越原裕幹氏は「改めて考えてみると、福祉車両も確かにはたらく車ですよね。わかりました。一般の人にも福祉が浸透するような面白いデザインを考えてみましょう」と、商品化を快諾してくれた。
半年を経て完成したTシャツの表には、日本の福祉車両の象徴とも呼べる日本財団のマークが、裏には車イス用リフトに乗るおじいさんと介護ヘルパー、そして多くの動物たちが描かれている。親子でペアルックで着られるサイズ展開で、表と裏で絵柄がつながる仕掛けも隠されている。
5月上旬に発売され、オジコのウェブストアのほか、東京スカイツリーの商業施設「ソラマチ」や松屋銀座などの店頭にも並ぶ。売れ行きは順調で、子供や孫へのプレゼントを探しに来た女性に好評だという。
「裏のイラストの柔らかい雰囲気が興味を引いているようです。店員が福祉車両の説明をすると、車にも興味を持ってくれる方が多いです。『将来、優しい子に育ってほしいから』と購入される方もいました」と話すのは、チャンネルアッシュ広報担当の飯島みなみさん。
核家族化が進んで施設に入る高齢者が増える中、一般の人が介護や介助を身近に感じる機会が減っている。福祉車両Tシャツが、福祉施設で行われている介護の仕事への興味や関心を喚起し、社会的な評価の向上につながる端緒になってほしい。(日本財団広報チーム 宇田川貴康/SANKEI EXPRESS)