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パキスタン軍、テロ掃討開始から1カ月
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パキスタン・部族地域と、カラチ
パキスタンのアフガニスタン国境に近い部族地域で、パキスタン軍がテロ掃討作戦を開始して約1カ月が過ぎた。軍は空爆に続いて地上作戦を実施し、テロリスト約500人を殺害、88カ所の潜伏場所を破壊した。ナワズ・シャリフ政権は、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)などに対する攻勢を強めている。
パキスタンでは先月(6月)上旬、南部カラチの国際空港がタリバン運動などのテロリスト集団に襲撃され、27人が死亡、空港が一時閉鎖された。
シャリフ政権は、昨年(2013年)6月の発足前から、タリバン運動との和平を目指し、対話路線を掲げてきたが、最大都市で経済の中心でもあるカラチの空の玄関口が襲撃されたことで、テロ掃討にかじを切った。
軍は6月15日、「政府の指示を受け包括的なテロ掃討作戦を開始した」と発表し、この日未明に、タリバン運動などが潜伏する部族地域、北ワジリスタン地区を空爆した。
今月(7月)16日付のドーン紙によれば、地上作戦を行っている軍は北ワジリスタン地区の中心地ミランシャーを制圧したのに続いて、7月14日には第2の町、ミラリに入り、タリバン運動の幹部ら6人を殺害した。1カ月間で投降したテロリストはミランシャーとミラリで32人、軍側は26人が死亡、80人が負傷する被害を受けた。
ミランシャーでは、大量の武器と爆発物が押収された。市場ではテロに使用される即席爆発装置が公然と売られ、店の外ではタリバン運動が市民を処刑することもあったという。町では、防弾車やアフガン警察の車両も押収された。周辺には地雷が敷設され、軍は慎重に地上作戦を進めた。
軍は15日、この1カ月でテロリスト447人を殺害したと発表。ロイター通信によると、16日には空爆で武装勢力のメンバー35人が死亡した。
米無人機による空爆も相次いでいる。16日には18人が死亡した。シャリフ政権はこれまで、米無人機の攻撃を非難してきたが、黙認あるいは協力している可能性もある。
北ワジリスタン地区からは避難民の脱出も相次いでいる。これまでに約90万人が避難民として登録したが、地区の人口よりはるかに多いため、政府は二重登録の疑いを含めて調査している。
一方、北ワジリスタン地区には、アフガンで米軍やアフガン治安部隊にテロを繰り返し、タリバン運動と同盟関係にあるイスラム原理主義勢力タリバンの強硬派、ハッカニ・ネットワークも潜伏していた。
米国はかねて北ワジリスタンでテロ掃討作戦を行うようパキスタンに圧力をかけてきた。ハッカニ派はパキスタン当局をテロの標的にしておらず、パキスタン軍と密接な関係があるとされ、軍は米国の要請に応えてこなかったが、カラチ空港のテロで事態が急変した。シャリフ首相(64)は「すべての外国人戦闘員と地元テロリストを例外なく一掃する。聖域は許さない」との声明を発表している。
しかし、現地の住民からは、ハッカニ派はテロ掃討作戦前に逃亡したとの証言が聞かれる。北西部カイバル・パクトゥンクワ州バンヌで避難生活を送る男性(35)は電話取材に「ハッカニ派は弾薬とともに作戦前にアフガンへこっそり逃げていった。ハッカニ派には一発の銃弾も当たっていない。これまで軍の賓客のような暮らしをしていた」と述べた。
ロイター通信も「ハッカニ派のメンバーが家族もろともいなくなったのは、彼らがここに住んでいる15年以上の間で初めてだ」との住民の話を伝えた。タリバン運動の指導者は掃討作戦前、ハッカニ派のメンバーと会い、アフガンでの避難場所の提供を求めたが、丁重に断られたという。
部族地域を取材する地元記者は電話取材に「アフガンのタリバンのメンバーはこの時期、アフガンでのテロのため、北ワジリスタンを離れている。軍事作戦はハッカニ派を標的にしていない」と分析し、「軍は、アフガンでテロを働くハッカニ派を戦略的に貴重な存在だと見なしており、関係を断つことはない。軍事作戦が終われば、多くのメンバーが戻ってくるはずだ」と話している。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS)