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【勿忘草】暗闇の世界

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【勿忘草】暗闇の世界

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 真っ暗闇の世界に身を置いたことがありますか? そう尋ねると、多くの人は「夜寝るとき」や「光が届かない田舎の夜」を挙げるだろう。

 確かに寝るときは明かりを消すが、暗闇に目が慣れてくるといろいろなものが見えてくる。完全な暗闇ではないからだ。田舎の夜も同じ。見上げると星の多さに驚く。降り注ぐ天からの光が、地上の闇を照らしているのだ。

 どんなに目をこらしても何も見えない。それが完全なる闇だ。そんな闇の中で歩き、遊び、飲食する。日常生活では考えもつかない体験をさせてくれるのが、東京・外苑前で行われている「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」だ。この世には暗闇の“達人”がいる。視覚障害者たちだ。DIDは視覚障害者がガイドとなり、最大8人がグループを作って暗闇でさまざまな体験をする1時間半のプログラムだ。

 先日、姉とともにDIDに初参加した。姉以外は初対面の8人が自己紹介し、愛称を披露する。その意味は暗闇に入ってすぐ分かった。何も見えない世界では音が頼り。「◯◯ですよ」「××さん?」と声を掛けながら、時には手や体に触れながら、8人は離れないように歩いていくのだ。

 目を開けているのに何の視覚情報も得られない世界に当初は戸惑う。ガイドの指示を頼りに、しゃがんで足もとを確かめたり、水音に近づいて手を伸ばしたり。聴覚だけでなく触覚も重要な情報収集ツールだ。

 真っ暗の喫茶店で注文し、手探りで財布から料金を払う体験もできる。店員さんがビールを運んでくると「これはスーパードライ」「いや、エビスじゃないか」と“利き酒”が始まる。私はコーヒーを頼んだ。見えないけれど近づけば分かる。カップから立ち上る湯気。熱いから気をつけよう。

 体験後、しばし考え込んだ。例えば今、表面が光るものを見たら、触らなくてもつるつるだろうと思う。だが、そんな経験則がない子供の頃は、触ったりなめたりして判断してきた。私たちがこんなにも視覚に頼り始めたのはいつからだろう。「見える」ことによって私の感性は鈍化したのだろうか。

 暗闇の中ではこんなにも多くのものが「見える」のに。何だかもったいない気持ちで帰路についた。(道丸摩耶/SANKEI EXPRESS

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