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愛しのラテンアメリカ(14)ペルー 印象一変 肌で感じた貧困の存在
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山の斜面に並ぶ家々。新市街と旧市街の風景はとても異なる=ペルー・首都リマ(緑川真実さん撮影) 広大な太平洋を望むように建つ、曲線を描く大型の商業施設。沈みゆく夕日が色彩を織りなす夕空。子供たちは原っぱの遊具でまだ元気よく遊んでいる。夕暮れ時のペルーの首都、リマ。新市街のミラフローレス地区は、平穏な雰囲気に包まれていた。
高層ビルが立ち、片道4車線の自動車専用道路をさっそうと車が走り、カジノがにぎわう。潮風を感じるこの街は、素朴な印象だったペルーのイメージを一変させた。でも、浮かれていたのもつかの間。滞在日数を重ねるうちに、リマのもう一つの顔も垣間見ることになった。
大聖堂や教会、修道院など植民地時代の荘重な建造物が並ぶ旧市街のはるかかなたを眺めると、木が一本も生えていない乾いたはげ山の斜面に、カラフルな色のバラックが身を寄せ合うようにひしめき合うのが目に入る。貧困がすぐそこに存在することを想起させる。昼間でも薄暗く、手頃な食堂が繁盛しているような路地を歩くと、旧市街のあまりよろしくない治安は肌で感じることができる。
旧市街から新市街に向かうバスに乗車中、急に運転手の男性が大声で「窓とドアを閉めろ!」と、車掌役の少年に怒鳴った。突然緊張に包まれる車内。乗客も含め一斉に指示に従った。何が起きたのかと外に目をやると、10代後半から20代前半の少年グループが闊歩(かっぽ)している。彼らの横をバスが通り過ぎると「よし。開けていいぞ」。運転手から安堵(あんど)の声が聞こえた。窓もドアも閉めて警戒するなんて、最悪の事態を考えるとぞっとする。リマ発の長距離バス会社も、安全対策のために搭乗口で乗客全員の顔写真を撮影していた。一言では語れない、リマ市民の生活がそこにはあった。
≪「50年後に島民はいないだろう」≫
大都会リマだけでなく、アマゾンの熱帯雨林、アンデスの高地と、日本の約3倍強の面積を持つこの国の風景は多様性に富んでいる。ペルー南部、ボリビアとの国境にまたがるティティカカ湖もその一つ。ティティカカ湖は15世紀頃に栄えたインカ帝国の神話に登場する初代皇帝マンコ・カパックが生まれた湖ともされる。標高約3800メートルの高地で、山々に囲まれてアンデス山脈をくだった雪解け水をひっそりとたたえているその姿は、神々しくもある。
琵琶湖の約12倍の面積を誇るこの湖には、魚だけでなく人も住む。中でも水生植物を積み重ねて作った浮島、ウロス島にはウル族と呼ばれる人々が住み、その生活スタイルの珍しさから毎日のように観光客が押し寄せる。ツアーの説明によると、ウロス島は全部で現在約80の浮島があり、1つの島当たり平均4、5家族が住んでいるという。島だけでなく、家や船もトトラと呼ばれる植物製の手作り。大きな島には学校や教会もあり、街として機能しているが、生活が不自由なことに変わりはなく、若者は島を出ていくという。「50年後にはウロス島民はいないだろう」。住民の男性が話していた。グアテマラの先住民文化に続き、ここにも、消えゆくひとつの景色が蜃気楼(しんきろう)のように危うく、存在していた。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS)