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【取材最前線】もう一度会いたい本の女の子

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【取材最前線】もう一度会いたい本の女の子

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 先日、「東京子ども図書館」(東京都中野区)の理事長をしている松岡享子(きょうこ)さんから話を聞く機会があった。この図書館は、「くまのパディントン」シリーズなどの翻訳で知られる松岡さんや、「くまのプーさん」の訳者である石井桃子さん(1907~2008年)ら4人の女性が個別に開いていた家庭文庫を統合してできた、子供のための私設図書館で、今年で設立40周年を迎える。

 閑静な住宅地にある図書館を訪れたのは初めてだった。れんが造りの瀟洒(しょうしゃ)な建物で、館内には子供たちのために選び抜かれた蔵書が詰まっている。そのなかで、松岡さんが訳した「ゆかいなヘンリーくん」シリーズが目をひいた。

 このシリーズは米児童文学作家、ベバリー・クリアリーさんの子供向け小説で、日本では昭和40年代から現在までに続編を含め、14冊が刊行されている。このシリーズに登場するラモーナという天真爛漫(てんまん)な女の子が、私は小学生の頃から好きだった。多分母が買ってきてくれたであろうシリーズの一冊「ラモーナは豆台風」(学習研究社)は、ぼろぼろになってもずっと本棚に残っていた思い出の一冊だ。

 ラモーナは「野性児」とでもいうべきやんちゃな女の子で、本好きでまじめな姉、ビーザスを困らせてばかりいる。たが、私はつらい目に遭っても自分の信念を曲げないラモーナの強さに憧れたのだ。

 取材の最後、私がそう言うと松岡さんは「子供らしい子供を描いていると思うの。(作品が書かれた)1950年代のアメリカというのは、とても明るい時代だったから、子供の本もやっぱり明るいのね。『将来は明るいんだ』と思えるような。今の日本ではああいう本は書けないかもしれないわね」と、子供たちに向けるのと同じような優しい笑顔で話してくれた。

 今の日本にも、もちろんすてきな児童小説はたくさんあるだろう。だが、ラモーナのような女の子は確かにあまりいなくなってしまったのかもしれないと感じることがある。

 子供の頃に読んだ本というのは、不思議にいつまでも覚えているものだ。読み返したら、忘れかけていたものを取り戻せるかもしれない。もう一度ラモーナに会いに、本を読み返してみたくなった。(戸谷真美/SANKEI EXPRESS

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