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経済
ビール開発競争 重税が生んだ新ジャンル 品質向上に懸念も
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第3のビールだった「極ZERO(ゴクゼロ)」を発泡酒に変更して再発売し、記者会見するサッポロビールの尾賀真城(おが・まさき)社長。ゆがんだ税制のために、日本のビールメーカーは高い技術力と経営資源を「ビールっぽいもの」をつくることに傾けざるを得ないのが現状だ=2014年7月15日、東京都渋谷区(共同) 人気を集めてきた新ジャンル商品の「第3のビール」に巨額の追加税が発生したことで、業界が騒がしくなっている。複雑な税率区分を背景に、各メーカーが重税を回避しようと開発競争を進めてきた新ジャンル。しかし、こうした商品に経営資源を奪われれば、本来のビール造りがおろそかになりかねないと懸念する声も出ている。
6月、サッポロビールの新ジャンル「極ZERO(ゴクゼロ)」について、新たに酒税約116億円が発生することが判明した。税率が低い新ジャンルに該当するか確認するため、国税当局が情報提供を求めたことが発端となった。
結局、サッポロは税率の高い発泡酒として再発売し、差額分の酒税を修正申告した。製法や成分のどこに問題があったのかは不明で、業界には「当局の思惑が分からない」と不信が広がる。
そもそもビールの酒税は他の酒に比べて高いと言われてきた。ビール酒造組合によると、アルコール1度当たりの酒税は44円。同じ醸造酒のワインや日本酒と比べると約6倍で、小売価格の4割を酒税が占める。
財務省主税局によると、ビールがぜいたく品だった時代に重税を課したのが始まり。担当者は「税率を上げても消費が衰えていないので、今の税負担でも耐えられると考えている」と説明する。消費量が多く、減税は税収への影響が大きいという事情もあるようだ。
「税金を安くできるビール類を、と考えた」。キリンビールの広報担当者は、キリン初の発泡酒「淡麗」を発売した1998年をこう振り返る。
ビール類は麦芽使用率で分類される。ビールは66.7%以上で、発泡酒が25%未満。新ジャンルは麦芽50%未満の発泡酒に蒸留酒を混ぜたものと、麦芽の代わりに大豆などを使ったものがある。
しかし国は96年と2003年に増税を実施し、発泡酒の税額は1.6倍に。「ビールに近い商品なので、税率格差を縮めた」(財務省)。さらに税率が低い区分の新ジャンルも増税され、いたちごっこが続いている。
今やビール類出荷量の半分を占める発泡酒や新ジャンルは、国内限定商品だ。大手メーカーの関係者は「日本の酒税法に合わせて造った」と打ち明ける。キリンも海外では主力ビールの「一番搾り」を売り込んでいる。
日本でしか売らない商品作りに注力してきた各メーカー。第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは「国内の税法をすり抜ける方向に経営資源が振り向けられるのは、国際競争力上問題だ」と警鐘を鳴らす。
東京都内で飲食店向けの限定ブランドビール販売会社を経営している佐々木正幸社長(54)は、発泡酒や新ジャンルの開発や製造には高い技術力が必要と断った上で「それでも『ビールっぽいもの』に力を注がざるを得ないのはゆがんだ税制の弊害だ」と批判する。法律が変わればビールの品質も向上するはずだと、本来のビールの復権に期待を寄せる。(SANKEI EXPRESS)
≪ノンアルコールビール上げ潮≫
アルコールを含まないビール風味飲料の人気が高まり、ビール大手が生産拡大を進めている。行楽シーズンの夏場の需要を最大限に取り込もうと、今月(8月)はアサヒビールが「ドライゼロ」を前年同月より2割増産、サントリー酒類も「オールフリー」を1割増産する。
アサヒのドライゼロは、今年1~7月の販売量が前年同期比16.4%増の239万ケース(1ケースは350ミリリットル缶24本)と伸長。特に、梅雨明けを迎えた7月後半は売り上げが約4割も伸びたため、8月の増産を決めた。
6月には味わいが黒ビール風の新商品「ドライゼロブラック」を発売、飲食店向けに良質な泡を作れる専用サーバーも開発して営業活動を強化する。
サントリーの1~7月販売量も前年同期比4%増の283万ケースと好調で、10月には徳島産ユズ果汁を加えた「オールフリー 瀬戸内限定ゆず」を全国で限定発売。約2000カ所の小売店で試飲会も開き、顧客層の拡大を図る。
ビール風味飲料は、キリンビールが2009年に発売した「キリン フリー」が人気の火付け役となった。飲酒運転への社会的批判の高まりも背景に、販売量は右肩上がりで拡大。今年も前年比約4%の市場拡大が見込まれる。
ビール類が昨年(2013年)まで9年連続で縮小する中、販売競争の重点分野の一つとなっている。(SANKEI EXPRESS)