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【広島土砂崩れ】笑顔絶やさない「愛されキャラ」 不明球児の死亡確認
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捜索の行方を見守りながら、鳥越康太さんの救出を待ち続けた同級生たち。しかし、願いはかなわなかった=2014年8月21日午後、広島県広島市安佐南区(共同) 局地的豪雨による広島市の土砂災害で多数の死傷者を出した安佐南区(あさみなみく)八木では8月22日、新たに広島県立安西(やすにし)高校の野球部で活躍した3年の鳥越康太さん(17)の死亡が確認された。熱戦が続く甲子園には出場できなかったが、夏の地方大会ではチームの勝利に貢献した。「頼むから無事でいてほしい」と、捜索の行方を見守り続けた同級生の願いは、かなわなかった。
高校の棟田龍司教頭(54)らによると、鳥越さんは父親と兄、祖母の4人暮らし。中学でも野球に取り組み、高校では控えのキャッチャーで、打撃が得意な代打の切り札だった。部活では笑顔を絶やさないムードメーカー。野球部の同級生(18)は「みんなから『鳥ちゃん』と呼ばれる愛されキャラ。鳥ちゃんが打席に立つだけでチームが盛り上がった」と振り返る。練習試合では他校の監督からも「すごく感じの良い選手がいる」と褒められることもあったという。
甲子園をかけた7月の地方大会。康太さんは1回戦で代打に立つと、二塁打を放ってチームを勢いづけ、快勝に結びつけた。惜しくも2回戦で敗退したが、卒業後は「すし職人を目指して料理修業を始める」と誓っていたという。高校が夏休みに行う就職に向けた補講や、職場研修にも通い、意志が強く、自分で決めたことは最後までやり遂げる性格だった。
自宅は大きく傾き、康太さんがいたとみられる1階部分は土砂に埋もれた。男手一つで康太さんを育てた父親もすでに死亡が確認された。
家の中からは、野球部の記念写真や泥だらけのグラブ、バットが運び出された。いても立ってもいられず同級生や部活の先輩がひっきりなしに現場に駆けつけていた。
高校1年のときに同じクラスで、康太さんの無事を祈っていた古賀亮佑さん(17)は「笑っている顔しか浮かんでこない。信じられない」とうなだれた。野球部のチームメートで、小中高の同級生の男性(17)は部活以外でもゲームをしたり、公園でキャッチボールをしたりして遊んだ。「ちょっとお調子者で友人が多く、皆から愛されていた。野球部でも代打の切り札として重宝されていたのに…」と肩を落とした。
≪不意突く異変、どう察知 音・臭いに危険兆候≫
局地集中型の豪雨がもたらした広島市の土砂災害は、死者・行方不明者が計80人を超え、突発する災害への備えの難しさをあらためて浮き彫りにした。気象警報や避難指示・勧告に頼ることが難しい場合、不意を突く危険から身を守るにはどうすればいいのか。兆候を寸前に察知し、危うく難を逃れた住民のとっさの判断から多くの教訓を読み取ることができる。
「あと20秒遅れていたら、妻は死んでいただろう」
8月22日までに住民20人以上の死亡が確認された広島市安佐南区(あさみなみく)で、自宅を土砂にのみ込まれながら助かった会社員、洞木薫さん(63)が(8月)20日未明の恐怖を振り返った。
「ゴー」。午前3時すぎ、激しい雨音で眠りにつけず、2階の部屋で横になっていると、裏の山から聞き慣れない音が耳に入ってきた。
「もしかしたら山が崩れるのかもしれない」。1階で寝ていた耳の悪い妻の手を引いて、階段を駆け上がった。20秒もしないうちに、大量の水や泥が台所の窓を突き破り、1階がすべて土砂の海に変わった。
「地鳴り・山鳴りがする」「腐った土のにおいがする」。土石流や地滑りの危険な前兆として、内閣府の政府公報オンラインで例示されている現象が、豪雨のさなかに被災現場の各所で生じていた。
「普段とは違う。とにかくおかしいと思った」
安佐南区の西田千鶴子さん(67)が少しだけ開けた窓から、草木や土の濃いにおいを嗅ぎ取ったのは、午前4時ごろだった。母親を連れて外に飛び出し、腰まである水をかき分けながら道路へ逃れた瞬間、振り返ると、轟音(ごうおん)とともに山が崩れ落ちていた。
「葉っぱが腐ったようなにおいがして2階に上がった」。近くに住む青山和子さん(72)も、かすかな兆候から異変に気づいて危うく土石流から逃れた一人だった。
飼い犬の様子から危険を感じ取った人も。池田敏則さん(65)は午前3時半すぎ、愛犬が窓の外をにらみ、前足を突き出して固まったまま警戒している様子に気を留めた。
「ただならぬ雰囲気を感じ、思わず自分も立ち上がって外を見た」。砂利や岩が自宅に迫って来たのは、その一瞬後だった。
広島市にようやく災害対策本部が設置されたのは午前3時半前後。住民への最初の避難勧告はさらに遅れ、4時を過ぎていた。
兵庫県立大の室崎益輝防災教育センター長は「行政の避難指示や勧告を待っていてはいけない。大雨が降ったら耳をそばだて、土砂崩れの前兆現象を把握してほしい。夜間や大雨で外出できない場合は、1階から2階に避難したり、山側にある部屋から谷側の部屋に移動したりするだけで、命が助かる可能性がある」と指摘している。(SANKEI EXPRESS)
・山鳴りがする
・急に川の水が濁り、流木が混ざり始める
・腐った土のにおいがする
・降雨が続くのに川の水位が下がる
・立木が裂ける音や石がぶつかり合う音が聞こえる
※政府公報オンラインのホームページから