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10年後、今よりもっと進歩していたい 映画「がじまる食堂の恋」 女優、波瑠さんインタビュー
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「観光雑誌では分からない生の沖縄が映画では描かれています」と語る、女優の波瑠(はる)さん=2014年7月13日、東京都港区赤坂(栗橋隆悦撮影) 沖縄県名護市の小さな食堂を舞台に若い男女4人の切ない恋愛模様を描く青春映画「がじまる食堂の恋」(9月20日全国公開、大谷健太郎監督)で、少壮気鋭の女優、波瑠(はる、23)が映画初主演を飾った。「試写会で初めて作品を見たとき、登場人物たちの真ん中に私がいることがピンときませんでした。今でもやはり不思議な気持ちです。あと、映像はすごいきれいだと思いました」。丁寧でしっかりとした口調だが、腕組みをしながら「うーん」「そうだなあー」と独特の長い間を置き、ぽつり、ぽつりと短い答えを懸命に重ねていく。多くの映画に出演してきた波瑠といえども、今度ばかりは気負いや責任感が先に立ち、作品から得たであろう貴重な経験をまだ十分に消化し切れていない様子が見て取れた。
波瑠が演じたのは、亡き祖母からおいしい沖縄料理の秘伝レシピとともに受け継いだ「がじまる食堂」を一人で切り盛りするみずほ。ある日、みずほはバス停で東京からやってきた旅行客、隼人(小柳友(こやなぎ・ゆう))に声をかけられる。「財布をなくしたので、お金を貸してほしい」。
押しの強さに圧倒されたみずほは、渋々お金を貸し、しばらくの間、食堂内で居候させることにした。同じ頃、画家の修業で上京していた元彼、翔太(桜田通(さくらだ・どおり))が5年ぶりにみずほの前に現れた。「会いたかった」。翔太の思わせぶりな態度にすっかり動揺してしまったみずほに、隼人は助け舟を出す。「恋人になりましょうか?」。みずほと隼人は偽装カップルとなり、翔太が近づきにくい雰囲気を演出したところ、ほどなく謎の美女、莉子(竹富聖花((たけとみ・せいか))が翔太を訪ねてきて…。
人の気持ちを酌み取るのが苦手で、人と向き合ってもどこか居心地が悪く、本心をさらけ出してしまうのではないかと恐れ、果ては言動が尖(とが)ってしまう。そんなみずほが隼人との思いがけない出会いをきっかけに、少しずつ豊かな感受性を育んでいく過程が叙情的に描かれている。波瑠は自分の性格については「みずほにまったく似ていません」と自己分析し、具体的には「私は結構、適当なところがあるんですよ。もちろん考えるべきことは真剣に考えます。でも忘れるのが早い。切り替えが早いんです」と訥々(とつとつ)と理由を説明した。
4人の男女はそれぞれ人生に行き詰まりを感じていて、いずれもどうやら手痛い過去の恋愛の失敗が引き金となっているようでもある。そんな時期の過ごし方について波瑠は、みずほたちがたどった葛藤の軌跡を念頭に「スランプの時期は誰にでもあると思います。そんな時ほど自分の気持ちにしっかりと向き合い、何がしたいのか、何をすべきなのか、確かめることが大事かなと思います」と指摘した。そのうえで、スランプを取り巻く関係者たちとも心を確かめ合うことができれば、今にも窒息しそうな状況が初めて変わっていくに違いない-との考えだ。
実は波瑠がみずほを演じるにあたって大事な心がけとして意識したのもその点だ。みずほの生き方にも応用できると考えた。「みずほは登場人物の3人にいつも振り回される一方の役回りですが、決して確固とした自分がないわけではありません。一生懸命に自分と向き合っていますよね」。また、話し相手の言葉を聞きながら本心を想像するという日々の習慣を演技の最中にも心がけた。みずほの表情により深みが加わり、リアリティーにあふれる人物に仕上がるだろうとの思いがあったようだ。
今年1月下旬からわずか20日余りと駆け足で行われた名護市での撮影は、波瑠にとって思い出深いものとなった。それは観光地ではない部分の素の沖縄を見ることができたからだという。「もう沖縄は桜も咲いて、暖かかった時期なのに、私はコートを着て、マフラー姿の方を見かけました。理由は『今しか着られないから』だそうです。よもぎ入り雑炊とか知らない料理もたくさんありました。地元名護市のお祭りも見ることができました。『がじまる食堂の恋』は沖縄の良い部分がたくさん詰まった映画ですよ」。波瑠は胸を張った。
さて、内面の急成長を遂げたみずほだが、波瑠自身は10年後の自分の姿をどう描いているのだろう。「女優として今よりももっと技術的に進歩していたいです。母親役を演じていてもおかしくはない年齢でしょう。私生活ではきちんとした生活態度で毎日を送る人間にならなければいけませんよね。それは仕事にも通じる部分でもあると思います」(文:高橋天地(たかくに)/撮影:栗橋隆悦/SANKEI EXPRESS)