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【御嶽山噴火】「突然晴れた濃霧と強烈な臭い」 35年前の御嶽教訓「前兆見逃した」
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大雨による土石流で孤立する恐れがあるとして、避難勧告が出された長野県木曽郡王滝村滝越地区=2014年10月6日午前(川口良介撮影)
「2つのサインを見逃した…」。御嶽山(おんたけさん)で噴火に見舞われ、山頂付近から生還した長野県伊那市の山岳写真家、津野祐次さん(68)は登り慣れた霊峰の登山道で、普段とは異なる2つの自然現象に遭遇していた。突然に晴れた濃霧、腐った卵のような強烈な臭い。噴火の前兆だった可能性もあり、津野さんは「油断があった」と後悔を語った。
御嶽山が噴火した9月27日。津野さんは朝、長野県側の黒沢登山口から頂を目指し、濃い霧が立ちこめる登山道を進んだ。視界は50メートルほど。噴火の約40分前となる午前11時10分ごろに8合目半を過ぎた。
「わー、きれいだね」。登山者たちがそろって歓声を上げた。立ち込めていた霧が一気に晴れ、澄んだ青空がのぞいた。「こんなこともあるんだな」。20年以上前から年に10回ほど御嶽山に登り続け、通算では200回を超えているが、初めての経験だった。
いつもと異なる現象は続いた。噴火30分前。8合目半から200メートルほど進んだときだ。不意に卵が腐ったような臭気が鼻を突いた。「いつもよりきついな」。1キロほど西の「地獄谷」と呼ばれる急峻(きゅうしゅん)な谷ではいつもこの臭気がただよっている。「風に乗って、こちらまで流れてきたのかな」
その30分後、頂上まで残り200メートルほどの地点に立つと、薄黒い夏の積乱雲のような大きな雲が頂きを覆っていた。登山者たちは一様に、その異様な光景を見上げていた。噴煙だった。そう気づくや否や、「パチーン」と花火のような乾いた音が響いた。
山頂付近にいた登山者らは助け合いながら、急いで下山を始めた。「年配の方どうぞ!」「子供は先に!」。背後から巨大な壁のような噴煙が迫る。山小屋に逃げ込む人、さらに下る人とさまざまだった。
煙に追いつかれた。真っ暗だった。熱い砂が舞っていた。周囲で雷鳴が何度もとどろいた。じっと伏せて待った。「我慢できる限界の暑さだった」。煙が晴れた。近くにいた男性は「子供とはぐれてしまった」と再び山頂へ向かった。津野さんは近くの山小屋へ一時避難し、無事に下山した。
「今思えば、僕は2つのサインを見逃した。あのとき気づくべきだった」
津野さんが当時携えていたカメラには火山灰がこびりついていた。悔しそうに続ける。「霧が晴れたのは噴火直前に山が温まり霧を消したのではないか。臭いにも注意すべきだった」
御嶽山は35年前の1979年にも噴火している。死者こそ出なかったが、大量の火山灰被害が出た。翌年には日帰り登山が、さらにその翌年には山小屋での宿泊も再開した。噴火後、火山に登山する際の注意を呼びかけるチラシが登山者に配られた。臭気への注意を促す文言もあったという。
いつしかその教訓は、風化していたかもしれない。津野さんは「僕自身を含め危険な山という認識は薄れていた。今後、この山とどう関わっていくのか見つめ直すためにも、僕は今回の体験を語り継いでいかなければならない」と話した。
≪土石流の恐れ、麓に避難勧告≫
噴火で登山者51人が死亡し戦後最悪の火山災害となった御嶽山(長野・岐阜県、3067メートル)の麓にある長野県王滝村は5日、大雨による土石流で孤立する恐れがある滝越地区の住民に避難勧告を出した。長野県は台風18号の接近による大雨で二次災害の恐れがあるとして、5日の捜索活動を中止した。
王滝村の5日午後4時半までの24時間雨量は、山頂から南東へ約3キロの地点が34.0ミリ、同じく南東へ約10キロの地点が24.0ミリ。6日午後6時までの24時間予想量は120ミリとみている。噴火で降り積もった火山灰は少量の雨でも土石流が起きる可能性があり、気象庁は警戒を呼び掛けている。
長野県警は5日、死者のうち身元が分かっていなかった1人を愛知県豊田市の会社員、高野英人さん(29)と発表。これで死者51人全員の身元が判明した。長野県はなお12人が山中で行方不明になっているとしている。(SANKEI EXPRESS)