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【拉致再調査】27日に平壌へ担当者派遣 首相の賭け 指導部直結ルート構築

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【拉致再調査】27日に平壌へ担当者派遣 首相の賭け 指導部直結ルート構築

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記者団の質問に答える安倍晋三(しんぞう)首相=2014年4月22日午後、首相官邸(酒巻俊介撮影)  政府は22日、北朝鮮の特別調査委員会による拉致被害者らの再調査に関し、27日から担当者を平壌に派遣すると発表した。

 安倍晋三首相(60)は、担当者の派遣決定について、官邸で記者団に対し「調査委の責任者に対し、拉致問題が最重要課題であり、正直に誠実に対応しなければならないと伝えるのが目的だ」と述べた。政府は、北朝鮮の調査委委員長で国家安全保衛部副部長の徐大河(ソ・デハ)氏と面会する方向で調整している。

 首相は「調査に直接関わる責任者から、進捗(しんちょく)状況についてしっかり聞く」と強調。「拉致問題は『解決済み』と言ってきた北朝鮮の主張を変えさせ、重い扉をやっと開けさせることができた。派遣しないことで今後、調査を行うことができなくなるリスクを考えた」と説明した。

 平壌に派遣するのは、外務省の伊原純一アジア大洋州局長(58)をトップに、拉致問題対策本部、警察庁の職員ら約10人の担当者で、27~30日の日程で行く。伊原氏らは28、29両日に調査委と協議を行い、調査委から再調査の現状について聴取する。

 調査団の派遣は、9月29日に中国・瀋陽で行われた日朝外務省局長級協議で北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使が伊原氏に提案した。拉致問題をめぐる調査団の訪朝は2004年11月以来、10年ぶり。

 ≪首相の賭け 指導部直結ルート構築≫

 安倍晋三首相が拉致被害者の家族らの慎重論を半ば押し切る形で、北朝鮮の特別調査委員会による再調査の進捗状況を把握するための担当者の平壌派遣を決めた。新たな安否情報を得られる見通しがない中、「敵陣」の本丸に乗り込むリスクを取ってでも、調査委トップの徐大河(ソ・デハ)国家安全保衛部副部長と接触することを優先した。首相は、北朝鮮の指導部に直結する交渉ルートの構築を急ぎたい考えで、自らの意向が金正恩第1書記に伝わることを期待している。

 報告延期で限界感

 政府は今年3月、1年4カ月ぶりに北京で開かれた日朝外務省局長級協議を足掛かりに拉致問題解決に向けた協議を加速させた。5月には再調査実施で日朝が電撃合意し、7月からは再調査が始まった。日本政府はその引き換えに独自制裁の一部解除に踏み切った。

 だが、9月中旬に予定されていた北朝鮮側からの再調査の「初回報告」が先送りされ、宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使を窓口とした交渉が行き詰まっていた。外務省幹部は22日、「訪朝して直接日本の考えを伝えないと、次の展望は開けない」と指摘し、宋氏との交渉には限界があることを強調した。

 今回の担当者派遣は、再調査をめぐる北朝鮮との認識のズレを修正する狙いもある。日朝は5月に「全ての日本人に関する調査」で合意した。しかし、北朝鮮が時間の経過とともに、拉致被害者の再調査ではなく、日本人配偶者や行方不明者などの他の再調査を優先している疑念が消えないからだ。

 首脳会談も視野に

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は22日の記者会見で「具体的な調査結果が得られる見通しではないという前提で訪朝する」と強調、国内世論の期待が高まり過ぎないよう“予防線”を張ることも忘れなかった。2日間の調査委からの聴取で再調査の実態がどこまで明らかになるかは不透明で、北朝鮮側のペースに乗せられる危険性は否定できない。

 2004年に政府の担当者が訪朝した際、北朝鮮は拉致被害者、横田めぐみさんのものとされる遺骨を日本側に提出したが後に偽物であることが判明し、世論の批判が高まった。今回も北朝鮮が不誠実な態度をとれば、国民が「対話」を支持しなくなる懸念がある。

 首相には、日朝首脳会談へのきっかけをつかみたいという思惑もあるようだ。拉致問題をライフワークとする首相が、大きな賭けに出たといえる。(山本雄史/SANKEI EXPRESS

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