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人類がつくりあげた不思議な「神殿」 英国南部 ストーンヘンジ
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石柱遺跡ストーンヘンジを背景に携帯電話で自分の写真を撮る観光客=2014年9月25日、英国・ソールズベリー(内藤泰朗撮影)
英国南部にある石柱遺跡のストーンヘンジは、誰が何のためにつくったのか、いまだわかっていない。最新の技術で地中の調査が行われ、遺跡が周辺にも多数存在していることが最近、明らかになった。鉄器も文字もなかった約4500年前、はるか遠くから重い巨石を運んでつくられた石柱群は今も多くの人々をひきつける。巨石をも動かす先史時代の力にあやかろうと、不思議なパワースポットに出かけてみた。
英国名物のヒツジたちが草をはむ緑の丘陵地帯を、小高い丘の上の方に歩いていくと、突如、灰色の石柱群が目の前に現れた。建設された当時は、白かったが、時とともに灰色に変色したという。
石柱は環状に立てられ、その周りには、遺跡を巡る観光客のために歩道がつくられ、周囲から遺跡を眺められるようになっていた。太陽の光の当たり具合いや遺跡への距離、角度によって、同じ石柱でもさまざまな表情を見せてくれる。
石柱に最も近い所に、人だかりができていた。近づくと、小鳥の群れが石柱の上から行き交う観光客を見下ろし、時折、歩道近くに降りてきて観光客におこぼれをねだっていた。
「遺跡の“住人”ですよ」
近くにいた案内係が笑った。石柱近くには、通常の公開時間内には入場者数が多く混乱するので近づけないが、時折、日の出を拝むツアーなどがあり、それに参加すると、石柱のサークル内に入れるという。
「真冬は寒いが、人も少なく神々しい光景ですよ。何か特別な気持ちになります」。案内係はこう語った。
今年8月、英バーミンガム大などの調査チームが発表した研究結果によると、ストーンヘンジ周辺の15カ所で同じ時代の遺跡が埋まっていることがわかった。調査チームは約4年間、広範囲な地中を磁気センサーやレーダーで探査した。
これまでにも遺跡群が広範囲にわたることは知られてきた。だが、調査チームは、具体的な場所や地中の詳細な情報が得られたことで、ストーンヘンジの謎解明に向けた研究が進むと期待している。
ストーンヘンジは紀元前2500年ごろ、建立された。石を立てて環状に並べたサークル内に、巨大な組石がU字形に配置される。
だが、1本25~45トンもする巨石を、はるか250キロも離れた英南西部のウェールズから、誰が何のために、この地に運んできたのか。
「祖先の霊との対話をする神聖な場所、あるいは宗教的な儀式をするための祭壇だったという説や、癒やしの力を持つと信じられていた石が使われていることから人々を癒やす場所だったという説もある」
遺跡保存を担う公的団体「イングリッシュ・ヘリテージ」の歴史家、スーザン・グリーニーさんはこう説明し、「恐らく両方の意味を持つ神殿だったのだろう」と推測。「確かなのは、非常に重い巨石を運び、組み上げる高い技術を持つ人たちがつくり上げたことだ」と強調した。
英政府は昨年6月、周辺一帯の保全のために遺跡北側の国道を閉鎖。遺跡から2.5キロ離れた場所に昨年12月、新しいビジターセンターが開設された。これに伴い、遺跡近くのセンターは解体された。
観光客は、新しいビジターセンターから運行されるシャトルバスに乗り、遺跡近くまで行くか、歩いていくことになる。
「訪問者には、つくられた当時、人々が見て感じた同じストーンヘンジを見てほしい。だからこそ、視界に入らない離れた場所にビジターセンターをつくったのです」。グリーニーさんは言った。
建造から約4500年を経て、当初30本あったとみられる石柱は17本、組石も3基のみが残る。風化による倒壊や盗掘、周辺の開発などで、変わった風景そのものを復元する試みは着実に実を結び、ストーンヘンジは年間120万人が訪れる「英国のアイコン(象徴)」となった。
たかが石、されど癒やしの石である。人類がつくりあげた不思議な“神殿”に、今度は真冬に出かけてみたくなった。(内藤泰朗、写真も/SANKEI EXPRESS)
ユネスコの世界遺産にも登録されているストーンヘンジへは、ロンドン・ウォータールー駅から列車で英南部のソールズベリまで行き(所要時間約1時間半)、ストーンヘンジ・ツアー・バスでビジターセンターへ(約35分)。公共交通機関では、ロンドンから往復6時間はかかるため、1日がかりの訪問。イングリッシュ・ヘリテージのHP(www.english-heritage.org.uk/)で、チケット購入や開館日時などの情報を得ることができる。